尿失禁
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尿失禁

排尿を我慢できずに尿を漏らす、あるいは排尿する意思がないのに尿を漏らすことを尿失禁といいます。少しの尿漏れは中年以降の女性には珍しいことではなく、少しお腹に力を入れただけで尿が漏れるようなこともしばしばあります。尿失禁は日常の生活に支障をきたすとともに、人との付き合いを消極的にして、精神的な負担も大きくなります。

井上修二 先生

監修

井上修二 先生 (いのうえしゅうじ) (共立女子大学名誉教授、医学博士)

日常生活から考えられる原因

薄着などによる下半身の冷え

足元の冷える場所に長時間いたり、薄着によって下半身を冷やすようなことがあると頻繁に尿意をもよおすことがあります。この急な尿意によってトイレが間に合わなくなり、尿漏れを起こすことがあります。体が冷えると体温の低下で血管が収縮し、膀胱の血液の流れが悪くなるので、再吸収される水分量が減るために尿量が増えます。その変化を膀胱が敏感に察知して収縮し、尿意をもよおすことになります。

加齢による膀胱の機能低下

加齢にともなって体の他の器官と同様に泌尿器も機能が低下します。膀胱が委縮して尿の貯蔵量が減ったり、膀胱の弾力性が低下したりすることで、尿失禁や頻尿、残尿感など尿のトラブルを抱えることが多くなります。それに加え、体の動きが鈍く緩慢になり、尿意を感じてもトイレが間に合わなくなることもあります。

妊娠・出産による骨盤底筋のゆるみ

妊娠や出産によって骨盤が広がると、膀胱や尿道を支えて締める役割を果たす骨盤底筋がゆるみ、尿が漏れやすくなります。とくに、せきやくしゃみの拍子や、重い物を持ち上げようと踏ん張ったときなど、お腹に力が入ったときに尿漏れすることがあります。また、肥満による筋力の低下によっても骨盤底筋や尿道を閉める尿道括約筋の働きが低下して尿漏れしやすくなります。

疾患による障害や後遺症による尿失禁

膀胱の感染症が最も一般的ですが、排尿をコントロールする神経が障害を受けると、脳の指令がうまく膀胱に伝わらないので、尿意を我慢できなくなることがあります。脳出血や脳梗塞、パーキンソン病などが原因となり後遺症として尿失禁を起こすものや、認知症などで判断力が低下することによって尿失禁が起こります。また、前立腺肥大症では、排尿後にわずかに漏らすケースもあります。

尿失禁をともなう疾患

過活動膀胱(OAB)

過活動膀胱は膀胱が必要以上に過敏に活動することで、頻尿が起こる疾患です。主な症状は突然尿意に襲われ頻尿になり、ときには我慢できずに尿を漏らしてしまうことがあります。また、就寝中に1回以上トイレに行く夜間頻尿もみられます。さらに進行するとトイレが頻繁すぎて、仕事も外出もできなくなり、生活に支障をもたらすこともあります。とくに40歳以上に多くみられます。脳卒中や脳腫瘍などが原因となることもあります。

腹圧性尿失禁

お腹に力を入れると尿が漏れるのが腹圧性尿失禁です。男性に比べて圧倒的に女性に多いトラブルで、膀胱や尿道を支えて締める役割を果たす骨盤底筋がゆるむ40歳頃の女性の大半が経験するともいわれています。出産、肥満などの条件が加わると、さらに筋力が低下するためにより尿漏れしやすくなります。悪化すると、少し動こうとしただけで尿が漏れることもあります。

溢流性尿失禁(いつりゅうせいにょうしっきん)

尿道が狭くなったり、膀胱の筋肉の収縮力が低下することで、膀胱に尿が満杯になり、あふれ出して尿漏れを起こすのが溢流性尿失禁です。普段から排尿がちょろちょろと勢いがなく、しかもお腹に力をいれないとなかなか出ないという特徴があります。残尿感があり、頻尿で夜中もトイレが近くなったり、尿漏れもあります。高齢の人に多く、男性は前立腺肥大症でよくみられ、女性では比較的少ないのですが、子宮がんや直腸がんの手術をした人にみられることがあります。

神経因性膀胱

排尿を促す自律神経の障害によって起こる排尿のトラブルを神経因性膀胱といい、頻尿、失禁、排尿困難などが生じます。神経に障害を起こす疾患には、脳血管疾患、糖尿病による神経障害、脊椎損傷、パーキンソン症候群などがあります。また、子宮がんや直腸がんの手術の際に神経を傷つけたために、排尿困難が生じることもあります。

膀胱炎

膀胱内に細菌が侵入して炎症を起こすのが膀胱炎です。膀胱炎になるとトイレが近くなり、排尿時の痛み、尿のにごりや血尿が出ます。また、切迫感をともなう尿意を感じ、ときには失禁することもあります。圧倒的に女性に多く、再発しやすく慢性化すると尿が溜まるだけで痛みが生じます。性行為による感染が原因になることもあります。

前立腺肥大症

男性が60歳を越えるころから増える疾患で、大きくなった前立腺が尿道を圧迫することで尿のトラブルが起こります。尿の勢いが弱くなり、尿が出るまでに時間がかかるために排尿後の残尿感とともにチョロっと漏らし、下着を汚すことも珍しくありません。また、夜間の排尿回数も増え不眠になることもあります。さらに、進行すると尿がまったく出なくなるケースもみられます。前立腺がんの症状とよく似ているので、注意が必要です。

日常生活でできる予防法

骨盤底筋を鍛える

骨盤底筋のゆるみによる尿失禁には、膣と肛門にギュッと力を入れて引き締めてからゆるめる動作を繰り返す体操で骨盤底筋を鍛えることが有効です。あおむけに寝て足を肩幅に開き、「骨盤底筋を締める・ゆるめる」を朝夕10〜20分間で10〜20回ずつ繰り返しましょう。

下半身を冷やさないように注意する

冷えは尿意をもたらします。過活動膀胱の場合、冷えが誘因となって尿失禁を引き起こすこともあります。とくに薄着によって足元やお腹を冷やさないように、靴下や膝かけなどで暖めましょう。下半身の冷えは膀胱炎を引き起こす原因にもなり、この膀胱炎によって尿失禁を招くことになります。

対処法

病院で診察を受ける

尿失禁があるとついつい外出を控えがちになり、日常生活にも影響を及ぼします。尿失禁は、必ずしも加齢による老化現象と諦めなければならないものではありません。重い失禁や長く続く失禁には、疾患が隠れていることがありますので、一度泌尿器科を受診することをおすすめします。

プチメモ便秘と尿漏れの意外な関係

便秘と尿漏れの意外な関係

尿漏れに悩む女性は多く、成人女性の4人に1人、40歳以上になると3人に1人が尿漏れを経験したことがあるといわれています。そこには女性ホルモンの欠乏や出産の関わりもありますが、便秘も大きく関係しています。便秘は膀胱を圧迫したり、骨盤底筋を締めにくくしているのです。心当たりのある女性は、便秘の解消と骨盤底筋体操に励むと尿漏れの悩みから解放される可能性があります。