だるさ・倦怠感
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だるさ・倦怠感

週末はゆっくり休んだのにだるさ(倦怠感)や疲れが抜けない、やる気が出ないといった経験をしたことがある人は多いのではないでしょうか。だるさ(倦怠感)は休息不足や栄養不足、睡眠不足などにより起こることもありますが、疾患が原因となっていることも少なくありません。だるさ(倦怠感)の原因や予防法、改善するための対処法などをご紹介します。

渡辺 恭良 先生

監修

渡辺 恭良 先生 (理化学研究所 生命機能科学研究センター 健康・病態科学研究チーム)

だるさ(倦怠感)とはどんな感じの症状?

だるさ(倦怠感)は、運動など体を動かしたときに起こる肉体疲労からくるものと、安静にしていても感じる精神疲労からくるものがあります。肉体疲労であれば休息や睡眠により回復し、精神疲労であればリラクゼーションや気分転換が効果的といえるでしょう。しかし、休養しても回復しないだるさ(倦怠感)には重大な病気が潜んでいることもあるので、軽視は禁物です。

だるさ(倦怠感)の原因は過労やストレス、生活習慣の乱れが考えられる

だるさ(倦怠感)の原因には、ビタミン・ミネラルなど、栄養が不十分なことによるエネルギーの不足、体を酷使したことによる疲労の蓄積、精神的なストレスによる疲労(感)などがあります。

疲労には、栄養素からエネルギーを作る際、副産物として生じる「活性酸素」が関わっていると考えられます。活性酸素は細胞の中のタンパク質などを酸化(=サビつかせる)しますが、通常であればビタミンCなどの抗酸化物質により消去され、細胞の健康は保たれます。

しかし、加齢や疲労の連続などで修復するエネルギーが不足していると、サビついた部品が蓄積して細胞の調子が悪くなり、さまざまな障害が起こってきます。このような細胞の障害を免疫細胞が見つけ、サイトカインと呼ばれる伝播物質を出し、それが脳に伝わることで「疲れ」を感じると考えられています。

過労や睡眠不足、不規則な生活
働きすぎで休息が取れなかったり、睡眠不足が続いたりすると心身ともに疲労が溜まってきて、だるさ(倦怠感)が起こります。また、不規則な生活が続いても同じようにあらわれることがあります。

精神的なストレスの蓄積
人間関係や仕事によるプレッシャー、環境の変化などによって精神的なストレスが積み重なると、普段以上のだるさ(倦怠感)を感じることがあります。放置しておくと、うつ病や不安障害、心身症などの精神疾患につながっていくこともあります。

偏った食事による栄養バランスの乱れ
ビタミンやミネラル、タンパク質など、体に必要な栄養素が不足すると、だるさ(倦怠感)が起こります。
ビタミンについては、ビタミンB群、とくにビタミンB1、B2、B6、B12は栄養素をエネルギーに変える働きを持っており、これらが不足するとエネルギーが作られにくくなったり、代謝がうまくいかなくなったりして、だるさ(倦怠感)がとれにくくなります。
体の中にはTCAサイクル(クエン酸回路)と呼ばれる、炭水化物(糖)や脂質(脂肪酸)からエネルギーを作るシステムがありますが、これに関わっているのもビタミンB1、B2、ナイアシン、パントテン酸といったビタミンB群です。

ミネラルについては、ダイエットなどをしていると鉄分が不足し、だるさ(倦怠感)や貧血を引き起こすことがあります。

だるさ(倦怠感)に加えて頭痛や吐き気などの症状を伴う場合に考えられる疾患

だるさ(倦怠感)を伴う疾患はさまざまです。急性疾患では風邪、インフルエンザ、急性肝炎などが代表的です。顔にむくみがある場合などは腎臓疾患や心臓疾患が、顔色が悪くてめまいを伴う場合は貧血や更年期障害、低血圧症などが疑われます。ほかにもうつ病や心身症などの精神疾患、慢性肝炎や肝硬変などの肝臓疾患、糖尿病、結核、慢性腎盂腎炎、さらには、がんなどが疑われる場合もあります。

※以下の疾患の中には、医師の診断が必要なものもあります。
症状が続くなど心配な場合には、早めに医師の診断を受けましょう。

貧血
鉄分の不足などによって、血液の中で酸素を運ぶヘモグロビンが減少すると、体のすみずみまで酸素が届けられなくなり、だるさ(倦怠感)、めまい、頭痛などが生じます。ヘモグロビンの数値が男性は13.0g/dL以下、女性は12.0g/dL以下になると貧血とされています。ヘモグロビンは赤い色素(酸素が付いたヘム鉄の色)のため、不足すると赤味が少なくなって顔が青白くなります。

この疾患・症状に関連する情報はこちら。 貧血

風邪
風邪の原因となるウイルスや細菌などの微生物が体内に侵入すると、体がこれらを排除しようと免疫機能を活性化させます。免疫系の物質サイトカイン類の作用のため、発熱やだるさ(倦怠感)が起こります。発熱、頭痛、頭重感、鼻水、鼻づまり、咳などの呼吸器症状などもあらわれます。

この疾患・症状に関連する情報はこちら。 風邪(かぜ)

急性肝炎
肝炎の原因にはウイルス、薬剤、アルコールなどがありますが、多くはウイルスによるものです。急性肝炎を起こす肝炎ウイルスにはA型、B型、C型、D型、E型の5種類が知られており、肝炎ウイルスに感染後1~6ヵ月間の潜伏期間を経て発症します。急に発熱、頭痛、のどの痛みなどの風邪のような症状があらわれ、続いて褐色の尿が出るようになり、食欲不振、吐き気、嘔吐、全身倦怠感などの症状が黄疸(結膜や皮膚が黄色くなる)とともにあらわれます。

更年期障害
閉経の時期を挟んだ前後約10年間をさす更年期を迎えると、女性ホルモンの分泌が少なくなることに加え、社会的・心理的要因(子どもの独立、親の介護、老後不安など)などが複雑に絡み合い、疲れやだるさ(倦怠感)、不眠、肩こり、のぼせやほてり、イライラや気分の落ち込みなど、心や体にさまざまな症状があらわれます。また、男性にも更年期障害があることがわかっています。

この疾患・症状に関連する情報はこちら。 更年期障害

睡眠時無呼吸症候群(SAS)
10秒以上の無呼吸がひと晩(7時間程度の睡眠)に30回以上、あるいは1時間あたり5回以上起こります。寝ているときに大きないびきをかくのが特徴です。睡眠中に呼吸が止まったり、呼吸をしていても酸素を吸い込んで吐き出す換気量が半減したりすることから熟睡できず、十分な睡眠時間をとっても疲れがとれない、だるさ(倦怠感)が残るなど、日常生活に支障をきたすことがあります。放置すると高血圧や糖尿病、心臓病、脳卒中の原因になることもあります。

この疾患・症状に関連する情報はこちら。 睡眠時の無呼吸

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)
日常生活に支障をきたすような原因不明の著しい倦怠感や微熱、頭痛、筋力低下などが、休んでも回復せず6カ月以上の長期にわたって続く状態をいいます。全身のだるさ(倦怠感)や睡眠障害、思考力の低下など、心と体の症状があらわれます。症状が似ているうつ病や更年期障害と間違えられることが少なくありません。

うつ病
憂うつ、気分が重い、気分が沈む、悲しい、不安などの自覚症状や、食欲がない、体がだるい、疲れやすい、性欲がない、頭痛、肩こりなどの身体症状があらわれます。また、周囲の人達からもわかる症状として、表情が暗い、涙もろい、反応が遅い、落ち着かない、飲酒量が増えるといったことがあります。気分の浮き沈みはだれにでもあることですが、うつ病では自分でコントロールできないほど倦怠感が強く長い間続き、体や日常生活、社会生活に影響するという特徴があります。

ビタミンB1欠乏症
ビタミンB1が欠乏することで起こる疾患が脚気です。脚気は末梢神経がおかされる病気で、体のだるさ(倦怠感)、手足のむくみ、動悸、息切れなどの症状があらわれます。ビタミンB1は偏食によって不足することもあれば、糖分の摂り過ぎや激しい運動によって消費されることで不足することもあります。また、ビタミンB1はアルコールの分解に多く使われるため、アルコールの常習によっても欠乏することがあります。

ウェルニッケ脳症
ウェルニッケ脳症とは、ビタミンB1が不足することから引き起こされる神経系の急性疾患です。典型的にはアルコールの大量摂取と関連して発症し、意識障害、眼球運動の異常、運動失調が生じます。ビタミンB1の補充が適切なタイミングで行われないと、続発症としてコルサコフ症候群と呼ばれる慢性疾患を引き起こすことがあります。コルサコフ症候群を発症すると神経学的な障害は不可逆的になるため、いかにウェルニッケ脳症を疑い、対処するかが重要です。

糖尿病
糖尿病はすい臓でつくられるインスリンの分泌や働きが低下し、血糖値が慢性的に高い状態になる生活習慣病です。腎臓や目、神経に対する障害をはじめさまざまな合併症を引き起こしますが、初期は自覚症状がないため、血液検査で血糖値およびHb(ヘモグロビン)A1cにより診断を受けて初めて糖尿病であることを知るケースが少なくありません。糖尿病が進行すると、だるさ(倦怠感)、多尿(のどが渇いてたくさん水分を摂るために尿の量が増える)、頻尿(トイレの回数が増える)などの症状があらわれます。

※上記の疾患の中には、医師の診断が必要なものもあります。
症状が続くなど心配な場合には、早めに医師の診断を受けましょう。

一時的なだるさ(倦怠感)は市販薬で対処、持続するときは病院へ

自宅でのセルフケア

だるさ(倦怠感)のもととなる疲労をため込まないための方法として、適度な運動やバランスの良い食事、十分な睡眠があげられます。また、市販の薬を使うこともセルフケアの一つといえます。

適度な運動をする
適度な運動は、全身の血行を良くし、心身の疲労感を取り除くため、だるさ(倦怠感)の解消につながります。日中に体を動かすことで適度な疲労が得られ、夜はしっかり眠れて生活リズムが整うといったメリットもあります。さらに食欲も増えることから、栄養不足の解消にもつながります。

バランスの良い食事をとる
バランスの良い食事と十分な睡眠は、だるさ(倦怠感)の回復を早めます。1日3食を規則正しく、栄養バランスを考えて摂って、なるべく早く寝るように心がけましょう。疲労予防、疲労回復が期待できる成分として、食べたものをエネルギーに変えるビタミンB1、αリポ酸、還元型コエンザイムQ10、アセチル-L-カルニチン、抗酸化作用のあるビタミンC、イミダゾールジペプチドなどがあります。

十分な睡眠をとる
多忙で睡眠時間を十分にとることができないときは、入浴後に軽いストレッチをしてみてはいかがでしょうか。心身がリラックスし、心地良い眠りにつくことができます。また、パソコンやスマートフォン、タブレットから発せられるブルーライトは、睡眠を促すメラトニンというホルモンの分泌を少なくするため、寝る前はこれらを見ないようにしましょう。

週末に休んでもだるさ(倦怠感)がとれない場合には、日々の生活を見直しましょう。仕事の合間にブレイクタイムをもうける、自宅ではリラックスタイムをもうける、食事をきちんと摂るなど、ちょっとした心がけだけでだるさ(倦怠感)がずいぶん取り除けるでしょう。

市販の薬を使う
毎日の食事では摂りきれないビタミンやミネラルなどは、ビタミン剤などの市販の薬で補うことができます。特に糖質をエネルギーに変える働きを持つビタミンB群を補給するとよいですが、疲労回復に欠かせないビタミンB1は体に吸収されにくいという特徴があります。そのため、ビタミンB1誘導体という体への吸収率を高めた医薬品をとることがおすすめです。

医療機関の受診
持続的で回復しないだるさ(倦怠感)がある場合には、がんなどの重大な疾患が隠れていることもあります。医師による診察を受け、主治医に相談することをおすすめします。また、人間ドッグなどの健診を受けるのもよいでしょう。

生活習慣の改善や適切な栄養補給でだるさ(倦怠感)の予防を

規則正しい生活を心がける

不規則な生活やストレスは脳の疲労(感)や自律神経の乱れを引き起こします。忙しくても、朝は決まった時間に起きて朝食を食べ、朝日を浴びるようにしましょう。体内時計がリセットされ、体のリズムが整います。

十分な休息をとる

疲れを感じたら、まずは無理をせずにゆっくりと休むことが大切です。睡眠時間があまりとれないときも、質の良い睡眠がとれるよう、寝る前に音楽などを聴いてリラックスしたり、自分に合った寝具を選んだりするなどの工夫をしましょう。また、寝る前はコーヒーなどカフェイン入りの飲み物は控えるとよいでしょう。

ストレスを解消する

スポーツで汗を流したり、趣味に没頭したり、旅行に出かけ普段の生活圏を離れたりして心身をリフレッシュするとストレスが解消されます。悩みや不安があるようなら、誰かに相談するなどストレスのもとになっていることは早めに解決しましょう。さらに、好みの音楽を聴いたり、ペットを飼ったりして暮らしを明るくするといった工夫もストレス解消に効果的と考えられます。

栄養バランスのとれた食事をする

体の構成に欠かせないタンパク質、エネルギーの源になる炭水化物と脂肪、これらの代謝を調節するビタミンやミネラルなどのバランスがとれた食事をしましょう。忙しい朝も、パンやフルーツ、野菜の入ったスープなど手軽ながらも栄養価の高いものを食べ、肉や魚、大豆などのタンパク質を献立に取り入れるように意識してみましょう。タンパク質は体の構成に不可欠で、代謝に欠かせない酵素や免疫の抗体などの主原料なので、毎日摂るようにしましょう。

※画像はイメージです

■参考文献
渡辺恭良ほか, おいしく食べて疲れをとる, 丸善出版, 2016
川名正敏 総監修, オールカラー版 家庭の医学【第3版】 成美堂出版, 2016
主婦の友社 編, 家庭の医学 主婦の友社, 2018