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モモ

バラ科(生薬名:桃仁トウニン) Amygdalus persica Linn.(Rosaceae)

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 中国・黄河上流域の甘粛カンシャク陜西センセイ地方の高原地を原産とする落葉小高木。紀元前に中東から欧州に広まり栽培されたと考えられる。日本には縄文以前に渡来して古くから栽培されていたが、それは頭の尖った「天津桃」と呼ばれる北支系のもので、果実が小さく果肉の堅いものであった。近代のモモは明治初期に導入された中支系の品種「上海水蜜桃」などに改良を加えて育成されたもので、頭は平らである。交配の結果、多数の雑種を生じ、今では水蜜桃と白桃とを明白に分かち難いが、元来の水蜜桃は果皮が薄く、果肉が多少黄色味を帯び、やや酸味を有しているのに対して、白桃は果皮、果肉ともに純白で、肉質ややしまり甘味が強い。食用とする部分は中果皮であって、核は硬化した内果皮で、中に種子を蔵する。葉の出る前にたくさんの花をつけるので、アンズと間違えやすいが、本種は萼片ガクヘンの先が反り返らず、枝の先端に芽があることなどで区別できる。
 種子を「桃仁トウニン」と呼び、『神農本草経』の下品に収載されている。抗炎症、抗凝血、血小板凝集抑制、駆瘀血作用などがあり、下腹部の満痛、腹部の血液停滞、月経不順など主として婦人の下半身の病を治すことに用いられる。味は甘苦く、薬性は平。またシロバナモモの開花直前の蕾を採取して乾燥したものが「白桃花」で、利尿、緩下薬として利用される。民間では葉を「桃葉」と称して、腹痛や下痢に応用したり、浴剤としてアセモ取りの妙薬とする。昔、土用の一日を桃葉湯にする習慣があった。
 種子には青酸配糖体のアミグダリン(amygdalin C20H27NO11)約3%、脂肪油、可溶性蛋白質などを含むが、薬効と関連づけられるものはまだ明らかにされていない。また花にはトリフォリン(trifolin C21H20O11・H20)、ムルチフロリン(multiflorin)などを含む。
 『古事記』では、国造りを終えたイザナギが亡くなったイザナミに会うため黄泉ヨミの国へ行きますが、8種の雷が体に出現している姿を見て逃げ出し、その後を死者の国の女達が追いかけます。そこで、イザナギの投げた髪飾りがノブドウに、また櫛がタケノコになり、それらを女達が食べている間にようやくあの世とこの世の境・比良坂にたどり着き、そこに実っていたモモの実を3個投げると、女達は皆逃げていきました。そこで、イザナギはモモに「オホカムヅミノミコト」という神様の名前を与えたという。モモ太郎は、案外このモモの神様の子孫なのかもしれません。この古い民族信仰は今でも雛祭りの桃酒や桃花湯などとして残っているが、中国の陰陽思想で「モモの花」には陰をハラう力があり、鬼がモモを嫌うとされたことから、日本でも女の子を悪鬼や邪悪から守るために桃を飾ったものと考えられる。

解説:渡辺 斉(京都薬用植物園 園長) 撮影場所:京都薬用植物園

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