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見る/見られる/見せる目 ~コミュニケーションにおいて白目が果たす機能~

見る/見られる/見せる目 ~コミュニケーションにおいて白目が果たす機能~

〈話し手〉 小林 洋美 Hiromi Kobayashi (九州大学大学院人間環境学研究院発達心理学第一研究室)

 「目は口ほどに物をいう」、「目を白黒させる」など、目にまつわる慣用句。ある辞典には約270も収載され、それほど目が私たちにとって大切なものだということがわかります。
 目は感覚器としての印象が強く、「見る」という機能が主であると一般的には認識されていますが、実はもう一つ、ヒトがヒトらしくあるために重要な機能を持っています。それは、視線によってコミュニケーションをとったり、目の状態で全身状態を見極めるという機能です。さらにその目の構造をみてみると、霊長類のなかでヒトにだけ「白目」があります。そのことを研究で明らかにした小林洋美先生に、白目と視線(目の持つ意外な機能)について解説していただきました。

なぜヒトだけが白目を持つのか

 相手が何に興味を持っているのか、欲しいものはどれなのか、といったことを知るうえで、その人の視線は重要な手がかりになります。ヒト以外の霊長類の強膜()には茶色の着色があります。虹彩も茶色なので、他の個体からすれば、視線がわかりにくく、「隠されている」ともいえます。このおかげで、他の個体に視線を検出されることなく、こっそり情報を収集することが容易となり、集団内の競合的な関係において相手を出し抜くことができるとも考えられます。そういう意味では、ヒトだけがもつ白目はものすごく「不利」。しかし、コミュニケーションの装置としてはとても「有利」でしょう。ヒトの祖先種においては、群れサイズの増大に伴い社会的関係が複雑となり、それを維持することの利益のほうが、相手を出し抜くことの利益を上回ったのだと私たちは考えています1)。ヒトの目は「強膜の白色化」という、些細だけれど劇的な変化を遂げ、社会関係の基礎をなす、コミュニケーション装置としての機能を確実なものにしたのでしょう1)

1)Kobayashi H, Hashiya K: Evolution and Human Behaviour, 32(3); 157-165, 2011

ヒトの目の構造と充血

ヒトの目の構造と充血

白目にまつわる研究

白目は白いほど魅力的?

●白目は白いほど魅力的?

 赤ちゃんの白目は青みがかって透明感があり、キラキラとしてみずみずしさも感じます。一方、大人になると白目が充血して赤みを帯びたり、黄色っぽく見えたりします。比べれば一目瞭然、赤ちゃんの目が「きれい」と誰もが感じます。
 白目の色が加齢とともにどう変化するかを調べた最近の研究があります2)。20〜70歳の白色人種、286人の白目の色を調べたところ、年齢が上がるにつれ青色系よりも黄色系が強くなり、赤みが増し、色の明るさの程度が下がることがわかりました。
 元々人間は、若く、健康的な人に魅力を感じます。だからかわいくて健康的な赤ちゃんが魅力的なのですが、充血したり黄色みを帯びた白目は魅力が減少してしまうといえます。

2)Mauger,E:Psychology and Aging,29(3):626-635,2014

白目は白いほど魅力的?

写真 実験で使用された写真とほぼ同じものを再現
上は白目部分を赤く処理したもの。元の写真が下

(小林洋美先生ご監修)

●白目にあらわれる心の動き

 しかも私たち人間は白目の白さの程度を瞬時に判断しているようです。それを示した実験があります3)。白目を赤くした目の写真と通常の白目の目の写真を5秒間見てもらい、どのくらい悲しく見えるか、どのくらい健康的か、どのくらい魅力的かを点数で判断してもらうという実験です。その結果は、ご想像通り、白目が赤いとより悲しそうに、より不健康に見え、魅力が減少すると感じられました(写真)。アイコンタクトに役立つ白目は、外見の魅力につながりますし、感情など心の動きも伝えているのです。

3)Provine,RR et al.:Ethology,117(5):395-399,2011

白目から発信される「魅力・健康・若さ」

 ご紹介したように、白目が発信している情報は魅力や健康の程度、視線方向から推測される人間関係など考えていた以上に多く、しかも私たちは、意識しなくてもこれらの情報を瞬時に獲得してしまうのです。
 目と視線にまつわる研究も国内外で行われていますので、まだ知られていない視線の可能性が、これからの研究で明らかになるでしょう。

コラム

 真っ白いきれいな白目が、若さや健康の指標になることをお話ししましたが、実は、成長にともない白目と黒目の比率も変化します4)
 乳幼児の目は白目があまり露出していないため黒目率が高く、成長とともに白目部分が広く露出し黒目率が低くなります。成人女性がコンタクトレンズなどで黒目を大きくすることは、幼くかわいい幼児の黒目率にしていることになるのかもしれません。人為的に大きくした黒目が他者からより幼くかわいいと知覚されるのであれば、大きな黒目は超正常刺激*1といえるのかもしれません。しかし、正常値から逸脱した大きな黒目は、不気味の谷*2に陥る可能性もあります。魅力的になるか、不気味になるか、どちらの可能性も考えられるでしょう。

4)Kobayashi H, Kohshima S: Primate origin of human cognition and behavior. Berlin: Springer Verlag. 383-401, 2001

*1 超正常刺激:動物にある特定の行動を強く引き出させる、現実にはありえない刺激のこと。例えば、天然に存在しない砂糖の味覚(お菓子の甘い味など)は超正常刺激。

*2 不気味の谷:ある対象(ロボットなど)がヒトにとても似ている場合、非ヒト的特徴のほうが目立ってしまい、観察者に奇妙な感覚をいだかせてしまう状態。

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