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かぜの時の鼻症状はなぜ起こる?~早めの対処のメリットとは~

かぜの時の鼻症状はなぜ起こる?~早めの対処のメリットとは~

〈話し手〉 近藤 健二 Kenji Kondo(東京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科 准教授)

 かぜはもっとも身近な病気の一つです。症状は鼻水、鼻づまり、くしゃみをはじめ、のどの痛み、咳、たん、発熱など実に多様です。
 なかでも鼻症状は「鼻かぜ」という言葉があるように、かぜのひき始めから経験する症状ですが、かぜをひくとなぜ鼻症状があらわれるのかは意外に知られていません。
 そこで、鼻外来を担当されている近藤健二先生に、かぜの時の鼻症状のメカニズムと対処法、さらに鼻症状が神経の働きにも関係しているといわれる理由などをご解説いただきました。

かぜをひくとなぜ鼻症状があらわれるの?

 鼻症状は、かぜの原因となるウイルスが鼻に入り粘膜に付着し、感染することから始まります。そうするとウイルスに感染したことを察知する免疫機能が働き、体を守るためにウイルスを攻撃する様々な防御反応が起こります。具体的には、ウイルスを取り除くために白血球の一種である好中球などが働いて、ウイルスに感染した細胞を除去したり、粘膜に炎症を起こしたりします。
 くしゃみはウイルスという異物を吹き飛ばすためのものですし、鼻水もウイルスを洗い流すための防御反応であり、鼻づまりはこれ以上鼻の中にウイルスが入ってこないようにするために通路を塞ぐ働きです。どれも基本的には体の防御反応であり意味のあるものですが、それが不快な鼻症状として自覚されることになるのです。

かぜの時の鼻症状には順番があるの?

 かぜのひき始めには、まず鼻水が出てくるという経験のある人は多いのではないでしょうか。かぜの症状の起こり方には個人差もありますが、ある程度順番があるといわれます。かぜのひき始めには、のどの痛みや発熱と同時にサラッとした鼻水が大量に出てくしゃみが出るような、アレルギー性鼻炎に近い症状が出ることがよくあります。そのような状態が続いて熱が下がってきた頃に咳やたんが増え、鼻水はちょっとドロッとしてきますが、このあたりから鼻がつまってくるというような経過をたどります。

鼻水はどのように作られる?

 鼻水自体はかぜをひいていなくても1日に1リットル近く作られていますが、その大半は入ってきた空気を加湿するために、蒸発して使われたり、鼻の中の汚れなどを絡めとってのどに送り込むのに使われています。かぜの時にはプラスして数百ccほどの量が作られているのではないかと考えられます。
 鼻水が分泌される仕組みは、大きく分けると二つあります。
 一つは鼻の粘膜にたくさんある分泌腺からの分泌液です。脳から「鼻水を分泌しなさい」という指令が出ると、腺がギュッと縮んで分泌液が分泌されます。
 もう一つは、鼻の中の血管からの漏出液です。血管には無数の細かい小孔があり、栄養分を含んだ水分が漏れ出て体の組織に栄養を供給するようになっています。ところが、鼻の粘膜に炎症が起こると水分があふれ出すため、それも鼻水になります。
 健康な人の鼻水の8割は分泌腺からの分泌液、残りの2割は血管からの漏出液といわれています。かぜのひき始めのサラッとした鼻水には血管からの漏出液が多いと考えられ、回復期の粘り気のある鼻水は分泌腺からの分泌液が主体と考えられます。

鼻づまりはどうして起こる?

 鼻づまりと聞くと、大量の鼻水が鼻の空間につまっているように思われますが、実際にはそうではありません。
 鼻の中には図1のように、左右の幅8cmにもなる大きな空洞があります。この空洞の中心には鼻中隔びちゅうかくと呼ばれる仕切りがあり、その両側には甲介こうかいというヒダ状の粘膜を持つ軟骨様の組織があります。この甲介が外気の温度や湿度に応じて伸び縮みし、入ってくる空気を適切に加温・加湿して調節するラジエーターのような役割をしています。甲介の粘膜にかぜウイルスが感染すると炎症が起き、3~4倍まで膨れるといわれています(図2)。そうなると空気が通らなくなるため鼻づまりになります。さらにそこに鼻水が溜まってくると、より鼻づまりが悪化します。

鼻の内部構造

図1 鼻の内部構造

鼻の炎症

図2 鼻の炎症

鼻症状を放置しておくと?

 鼻の役割は、主に吸い込む空気の加温・加湿・除塵じょじん、そしてにおいの認識・識別(嗅覚)の四つです。
 鼻水が止まらなかったり鼻づまりになったりすると口呼吸になり、四つの役割を果たせなくなるため、体の調子を悪くする一因となります。
 また、鼻を通して順調に空気が循環していればのどの空間は正常に保たれますが、口呼吸がひどくなるとのどの空間が狭くなるため寝ている時のいびきがひどくなりますし、睡眠時無呼吸症候群を発症する可能性があります。
 さらに、鼻の一番奥の空間(上咽頭じょういんとう)には耳につながる管(耳管)の出口があり、鼻水が多いと耳に鼻水が流れ込み、中耳炎を併発するリスクもあります。
 特にかぜの時には、鼻の粘膜に炎症が起きており、その部分を放っておくとどんどん炎症が強くなるというメカニズムがあります。そして鼻水の中には炎症を起こす物質が大量に含まれていますので、鼻水にできるだけ早く対処することは、症状を軽くしたり症状が起こる期間を短くするということでもとても大切です。

鼻の正しいかみ方と鼻うがい

 「鼻をかむ」とは、気管から空気を一気に押し出して鼻水を外に吹き飛ばすことをいいます。ところが両鼻を同時にかもうとすると鼻の奥の圧力がいきなり高くなるため、耳のほうに鼻水が逆流してしまう危険性があります。そうすると中耳炎などを発症し耳を傷めることもあるので、片側ずつソフトにかむことが大切です。
 また、一般によく行われているのが鼻洗浄です。「鼻うがい」ともいわれていますが、生理食塩水を使って鼻の中を洗い流すことです。

 鼻うがいの方法は大きく分けて二つあり、日本では「えー」と発しながら片方の鼻から生理食塩水を入れる方法が一般的です。「えー」と発音すると鼻とのどの間の仕切り(軟口蓋なんこうがい)が閉じられるので、のどや気管に流れずに右の鼻から入った生理食塩水が左の鼻から出てきます。
 鼻洗浄用のボトルが各メーカーから販売されています。
 一方欧米では、生理食塩水を鼻から注ぎ、口から出す方法が指導されています。この方法は、慣れないと食塩水が気管に入りやすいという難点があります。

自律神経と鼻症状の関係を利用したかぜ薬の成分

 鼻水や鼻づまりの症状は、血圧や体温の調節などと同じく、自分の意思とは関係なく働く自律神経と関わっており、自律神経には交感神経と副交感神経があります。
 基本的に交感神経は興奮したり、何かを攻撃する時に働くような神経であり、副交感神経はどちらかというとリラックスしている時に働く神経です。
 例えばかぜの初期に多いといわれる鼻水は、ウイルスの感染による刺激が知覚神経から脳に伝わって、副交感神経の活動が高まって鼻腺から分泌がおこります。副交感神経は鼻腺などの分泌腺を制御して鼻の加湿機能を司っていますが、ウイルスなどの刺激によって分泌を病的に促進してしまいます。市販(OTC医薬品)のかぜ薬などにはこれらの働きを調整して症状を抑える成分が含まれています(図3)。この刺激を遮断して鼻水を抑える働きをするのが副交感神経遮断成分といわれるもので、ヨウ化イソプロパミドなどがこれに該当します。
 一方鼻づまりは、交感神経の働きが活発になると鼻の血管が収縮して粘膜がギュッと締まることで、鼻の通りがよくなり、症状を改善します。例えば激しい運動をする時は、酸素がより必要になるため交感神経が活発になり、鼻の通りがよくなることがあります。塩酸プソイドエフェドリンなどの成分は交感神経の活動を促進しますので鼻呼吸を助け、結果としてのども守ってくれます。
 また、アレルギー症状を抑える抗ヒスタミン成分も鼻症状を改善します。アレルギー性鼻炎では、花粉やハウスダストなどの異物の侵入に鼻の粘膜が反応しヒスタミンという物質が作られ、それによって鼻づまり、鼻水、くしゃみなどが起こります。かぜによる鼻炎の場合にもヒスタミンの放出が起こり症状に関与するといわれています。抗ヒスタミン成分の一つであるクロルフェニラミンマレイン酸塩は、ヒスタミンの作用を抑えるとともに副交感神経の抑制作用(抗コリン作用)も持っているため、二つの作用で鼻症状を改善します。

かぜの鼻症状とかぜ薬の成分の働き

図3 かぜの鼻症状とかぜ薬の成分の働き

自分の症状に合ったかぜ薬の選択を

 かぜのウイルスに対する治療薬は、現状では抗インフルエンザウイルス薬以外にはありません。そのため、かぜをひいたら基本的には体の免疫機能で対応することになります。
 かぜの症状を放置しておくと、鼻がつまってよく眠れなかったり体がだるくて食欲がなくなったりすることでさらに体力を消耗し、免疫機能もしっかり働いてくれません。
 そうならないためには、市販(OTC医薬品)のかぜ薬で早めに症状に対処するのがよいでしょう。
 ポイントは、自分の症状に合ったかぜ薬を選ぶことです。
 また、体力の消耗には、食事で栄養をしっかりとることが大切ですが、粘膜の健康維持に必要なリボフラビンなどのビタミン類や、みかんの皮に多く含まれるヘスペリジン(ビタミンP)といったものが配合されたかぜ薬もあります。
 ドラックストアへ行くと多くの種類のかぜ薬が並んでいますが、それぞれに特徴がありますので、自分の症状に合ったかぜ薬を店頭で相談されるとよいでしょう。
 また、市販(OTC医薬品)のかぜ薬をのんでも熱が下がらないなど症状が改善しない、黄色や緑色の膿っぽい鼻水が止まらないといった場合には二次感染も考えられるので、医療機関を受診することも心がけましょう。

コラム

 片側の脇の下にペットボトルやボールなどを挟むと、反対側の鼻の通りがよくなることをご存じでしょうか。これは神経反射を利用した方法で、つまり鼻の粘膜を制御する神経に圧力をかけることで起こります。「鼻の通りをよくするツボ」ということもあります。脇の下だけでなく胸や肩甲骨のあたりにも同じツボがあります。

 このツボを利用して、右側の鼻がつまっている時は右側の鼻が上になるようにして横になると鼻の通りがよくなります。これは重力だと思われる方もいらっしゃいますが、実際には左半身が下になることでそこのツボに圧力がかかり、結果として右側の鼻が通ります。ぜひ試してみてください。
 また、神経の反射の話では、まぶしいと感じるとくしゃみが出る、辛いものを食べると鼻水が出るといったことが起こります。経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。これにどのような意味があるのかは証明されていませんが、とても興味深いと思いませんか。

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