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便秘を改善して、健康寿命を延ばしましょう-OTC医薬品を適正に使用して-

便秘を改善して、健康寿命を延ばしましょう-OTC医薬品を適正に使用して-

〈話し手〉 中島 淳 Atsushi Nakajima(横浜市立大学附属病院消化器内科肝胆膵消化器病学 主任教授/診療部長)
〈聞き手〉 堀 美智子 Michiko Hori(医薬情報研究所 株式会社エス・アイ・シー)

 現代の超高齢社会では便秘で悩む方が多くなり、QOLの低下だけではなく健康寿命の延伸という観点においても、便秘でないことが重要とされ、便秘への適切な対処が課題となっています。ところが、薬局・販売店での情報提供が十分に行き届かないことなどもあり、OTC医薬品の便秘薬がよく理解されないまま適正に使用されていないといわれています。
 そこで、わが国で初めての便秘治療に関するガイドラインである『慢性便秘症 診療ガイドライン2017』の作成に携わられ第一線で便秘治療をされている中島淳先生と、薬剤師でOTC医薬品の適正使用のために幅広くご活躍されている堀美智子先生に、便秘をめぐる問題点や生活習慣も含めた便秘の原因、便秘薬の特性などについてお話しいただきました。

※診療ガイドラインとは、医療現場において適切な診断と治療方針を決定する際に参考とする医療機関の専門家向けの指針のことです。

堀先生
 初めに便秘の定義について伺いたいと思います。便秘は一般的に、何日間も便が出ない症状と考えられていますが、いかがでしょうか。
中島先生
 便秘の医学的な定義は、RomeⅣ基準という国際的な診断基準に記載されています。
 分かりやすくまとめますと、定義のポイントは二つあります。一つは「排便回数の減少」で、週3回未満が便秘の目安です。
 もう一つは、便が硬くて出にくいといった「排便困難症状」です。排便困難症状とは、排便時の力み(怒責どせき)、残便感、頻回便、肛門の閉塞感の4つの症状を指します。
中島先生
 便が硬くなるとお通じは毎日あっても、5分も10分もトイレで気張らなければなりません。また硬い便は水分が少なく便がひび割れします。専門的には分割排便といいますが、そうなると1回の排便ですべてが出切らないため、残便感を覚えます。残便があるわけですから、患者さんによっては1日に何回もトイレに行くことになります。
 さらに、「お尻の穴が詰まった」という訴えもしばしば聞かれます。便の出口である肛門は、実は舌や鼻と同じくらい繊細な感覚臓器で、そこに硬い便のかけらが残るとお尻が詰まったように感じ、とても不快になります。
 このような4つの排便困難症状は、便秘の方の半数以上に見られます。つまり一般的な便秘は、排便回数の減少か排便困難症状のどちらか、あるいはその両方から成る一連の機能異常と考えればよいと思います。
堀先生
 薬局・販売店の店頭で排便困難症状について伺うことはあまりないように思いますし、多くの方が排便回数を気にされていないのではないでしょうか。
中島先生
 便が硬くて出にくくないか、残便感がないかなどの排便困難症状は重要だと思います。その際に参考となるのが「便の形」です。便の形を客観的に評価する際に使われるブリストル便形状スケールという指標があります(図1)。
 これは硬い便から水様便までを7段階に分ける指標ですが、日本人ではその中段階(type4)にあるソーセージ状の便が正常とされます。
 便秘治療で求めるゴールは「1回ですっきり排便できること」です。ソーセージ状の便ですと、いっぺんにしかも短時間で便を出せることが報告されており、残便感のないすっきりとしたお通じで、満足度の高い排便となります。
 便秘薬の用量調節や効果判断の参考にもなるので、便の形状も確認していただきたいですね。

図1 ブリストル便形状スケール

堀先生
 便秘が何かの病気の原因になる可能性はありますか。
中島先生
 便秘が心筋梗塞や血圧上昇などの様々な疾患のリスクになることは数多く報告されています。しかしその前にまず念頭に置くべきことは、便秘が年齢を問わず生活の質を大きく低下させることです。
 私たちは朝起きた時によく眠れてすっきりした、ご飯を食べておいしかったと感じることができれば、自分は健康だと思えます。お通じも同じで、毎日すっきり排便できることは健康の証しです。つまり、毎日の睡眠、食事、排便は健康のバロメーターなのです。ところがそれらの一角が崩れると、生活に悪循環をもたらします。出るものが出なければ食事もおいしくなくなりますし、外出するのも嫌になります。
 高齢者では外出回数や運動量が減ると、サルコペニア(筋力や身体能力の低下)やフレイル(虚弱)に陥るリスクも高まります。ですから、元気で長生きするためにも便秘のコントロールはとても大切です。
堀先生
 健康寿命を延ばすためにも便秘の改善が必要ということですね。
堀先生
 便秘に使われる主な薬剤はどのように使い分けられますか。
中島先生
 腸の運動を促進するタイプの薬と、便を柔らかくするタイプの薬があります。
 腸の運動を促進するタイプの薬としては、ビサコジルが広く使われています。ビサコジルは高いエビデンスがあり、作用が強い薬です。ただし、用量調節が難しい薬でもあります。刺激性下剤は一般的に、数ヵ月間など長期に毎日使っているとだんだん効果が得られなくなってしまい(薬剤耐性)、薬の量が増えて依存してしまいますので、少し休薬するなど上手に使うと良いと思います。
 また、漢方薬の大黄甘草湯も広く使われています。大黄甘草湯には、腸を刺激して排便を促す生薬の大黄と、腸の過剰な運動や緊張を和らげる甘草が配合されており、エビデンスのある漢方薬です。一般的な刺激性下剤と違って、大黄甘草湯では甘草がカバーすることによって効果が確実な上にマイルドだという特徴があります。効果が確実ですから、この薬の使い方のポイントは、毎日使うのではなく、必要な時に必要なだけ使うと良いでしょう。適正に使用をすれば、高い満足感が得られる便秘薬です。
堀先生
 便を柔らかくするタイプの薬はいかがでしょうか。
中島先生
 一方、便を柔らかくするタイプの薬としては、塩類下剤や膨張性下剤、浸潤性下剤が使われます。
 塩類下剤である酸化マグネシウムは、服用してすぐに効くわけではありません。どちらかというと毎日使う薬です。
 なお、酸化マグネシウムは身体機能が低下した高齢者や腎臓が悪い方は毎日使わないほうが良いと思います。連用すると血中のマグネシウム濃度が上昇し、精神神経症状や消化器症状をきたす可能性があります。医療機関で処方する際には、「血液検査で血清マグネシウムを測定し確認しましょう」と決められているほどです。医療機関で腎機能をチェックしながら注意して使用するほうが良いと思います。
 また、この薬は胃酸や膵液で活性化されて効果を発揮するため、それらの分泌が高まる食後に服用することが大切です。逆流性食道炎などで処方されるプロトンポンプインヒビター(PPI)などの胃酸分泌抑制剤を定期的に服用している方では、酸化マグネシウムの効果が減弱するので、十分な注意が必要です。
中島先生
 どの薬を使うにせよ、ソーセージ状の便になる用量を目安に、少量から服用すると良いと思います。糞便量そのものが少ないために排便回数が減っている可能性もあるため、基本的なことにはなりますが、食事を十分量摂取したり、食物繊維を積極的に摂ることで改善することがあります。まずは生活習慣を見直しましょう。
堀先生
 性・年代別に気をつけるべきポイントはありますか。
中島先生
 高齢者の便秘は加齢によるもので、食事量や水分量の減少や、筋肉の衰えが主な原因です。便秘を初期に改善することによって生活の質がだいぶ変わってきますので、できる限り初期のうちに対処することが大切です。OTC医薬品による対処も有用です。ただし、前述の通り、高齢の方では腎機能が低下している方や胃酸分泌抑制剤を服用している方も多くいらっしゃいますので、塩類下剤には注意しましょう。
 便秘薬を常用している最近の若い女性で私が気になることは、薬を服用後にトイレに行かない方が多いことです。そうした女性の多くは、「朝ご飯を食べたあとは忙しくてトイレに行く時間がない」「会社では行けません」などと言い訳されます。
 薬をのんでもトイレに行かなければ薬が効かなくなりますし、そのまま何日もたてば便は溜まって硬くなり、結果として薬をたくさんのまなければ排便できなくなります。そこでわれわれは計画排便という指導を行っています。
 たとえば、薬をのんだあと8時間ぐらいで出るという方には、家でトイレに行ける時間の8時間前あたりに便秘薬をのんでいただきます。そして家に帰ったら必ずトイレに行くことを約束してもらいます。便秘を改善するためには便秘薬の適切な使用と排便環境の整備、すなわち“トイレに行く習慣”が大切だと思います。
 OTC医薬品の使用は、使用上の注意をよく読み、用法・用量を守って適正に使用することが重要ですので、上述のような計画排便をOTC医薬品で実施することは難しいですが、希望される場合には医療機関の専門家に相談すると良いでしょう。
堀先生
 小児ではいかがでしょうか。
中島先生
 実は、トイレに行かないために便秘が増えるという問題は小児の間でも広がっています。原因はお母さんがトイレに行かせないことです。お母さん自身が便秘だと自分はトイレに行こうとする習慣がありませんから、子供にも我慢させてしまいます。それが小児の便秘の原因となり、大人になって持ち越してしまう人が増えています。そういう意味では、毎日決まった時間にトイレに行く環境づくりは、家族全員で考えるべきだと思います。

性・年代別における便秘のポイント

中島淳先生ご監修

堀先生
 その他に気をつけるべきことはありますか。
中島先生
 実は排便時の姿勢も重要です。それは人の直腸の形が関係しています。人間の直腸は横から見ると「く」の字型に曲がっています。直腸の出口がぱちんこのゴムのような形状の筋肉(恥骨直腸筋)により引っ張られているからです(図2A)。
 そのような状態ですと、簡単には便を出すことができません。便の通り道をよりまっすぐにするためには、前屈み姿勢になり、ぱちんこのゴム状の筋肉を緩めることが必要です(図2B)。
 理想は背骨と大腿骨の角度が35度といわれており、ロダンの「考える人」以上に前屈みになるイメージです(図2C)。
 便の通り道をまっすぐにし、かつ便の状態がソーセージ状になるくらいの適度な柔らかさがあれば、直腸が収縮してギューッと便を絞り出す際に完全かつ速やかに便を出すことができ、快便となるわけです。そのため、和式トイレの姿勢が理想的ですが、最近は洋式トイレが多いので姿勢を工夫することは重要なポイントです。
 また、繰り返しになりますが食事の際には食物繊維や水分を意識して、適度な量の食事を摂取することも大切です。野菜やきのこなどの不溶性の食物繊維は、便の量を増やすことで便通を整えてくれます。
 また、食物繊維は腸内細菌のエサにもなります。食物繊維を積極的に摂取することで便秘薬の使用回数が減ることはよくありますし、便秘薬を使用する必要がなくなった方もいます。
 あとは十分な水分摂取と運動習慣を心がけることです。このように考えると、便秘は生活習慣病の一つといえるでしょう。

図2 理想の排便姿勢

堀先生
 医療機関を受診すべきタイミングを教えてください。
中島先生
 われわれは警告徴候と呼んでいますが、便秘の発症に伴う体重減少、血便、貧血、動悸、階段を上る時の息切れ、発熱があれば、消化器系の悪性疾患が疑われます。そうした時は一度、検査を受ける必要があります。
 また薬で便秘が改善されない時も、あまり長く様子を見るのではなく、医療機関に相談することをお勧めします。
堀先生
 最後に、便秘で悩んでいる方にメッセージをお願いします。
中島先生
 繰り返しになりますが、まずは便秘のどのような症状で困っているのか、排便回数が減ってつらいのか、便が硬くて出にくいのか残便感があるのかなど排便困難症状にも意識しましょう。
 1回ですっきり排便させるためには便の形状が大切です。ソーセージ状ですと満足感が高まりますので、水分摂取や食事の量、食物繊維の積極的な摂取、運動などの基本的な生活習慣を心がけましょう。排便する際には、前屈み姿勢になることもポイントです。
 便秘を生活習慣病の一つと捉え、初期の段階から対処することで生活の質の低下を避けることができ、健康寿命の延伸につながります。
 また、便秘で困っている症状に合わせて、OTC医薬品などの便秘薬を上手に適正に使用することで、満足度の高い排便を得ることができます。
堀先生
 本日は貴重なお話しをいただきありがとうございました。
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