胸の痛み(胸痛)
  • 胸・肺 胸・肺

胸の痛み(胸痛)

胸の痛みは、皮膚の痛みや筋肉痛、肋間神経痛をはじめとするさまざまな疾患によって起こります。また、圧迫されるような胸の痛みと同時に息切れの症状が起こるときは、心臓病や肺の疾患が考えられます。急を要する疾患が多いので、胸に強い痛みを感じたらすぐに受診が必要です。
ここでは、胸の痛み(胸痛)の原因や関連する疾患、そして日常生活でできる予防法や対処法などを紹介します。

井上修二 先生

監修

井上修二 先生 (いのうえしゅうじ) (共立女子大学名誉教授、医学博士)

胸の痛み(胸痛)の原因はストレスや肥満による心臓への負担などが考えられる

力を入れると胸が痛い場合は筋肉痛や疲労骨折の可能性も

日頃運動不足にも関わらず急に激しい運動をしたり、引っ越しなどの肉体労働をした翌日や翌々日に胸や腕が痛くなったという経験は少なからずあるはずです。これは、筋肉痛による痛みなので心配はいりません。しかし、痛みが長く続く場合や、息切れや呼吸困難をともなうようなときは肋骨の疲労骨折が疑われます。疲労骨折はスポーツなどで体を酷使する人、お年寄りなど骨が弱い人に多く起こります。

食生活や運動不足、ストレスなどの生活習慣

心臓が休みなく働くための栄養である血液は、心臓を取り囲む冠動脈から心臓に送られます。しかし脂肪分や糖分・塩分のとりすぎなど、乱れた食生活や運動不足、過剰な精神的ストレスによって冠動脈が硬く、狭くなる動脈硬化を起こすと、血液が心臓に流れにくくなって心臓が酸欠状態になり、胸の痛み(胸痛)があらわれます。また、日々の偏食や過労で肺の抵抗力が低下すると、細菌などに感染しやすくなり、肺の疾患を誘引する大きな原因となります。

喫煙の習慣

タバコの煙に含まれるタールは、肺や気管支に悪影響を与えて炎症を引き起こします。慢性的なせきによる胸の痛みに悩まされることも多く、肺や気管支の疾患の危険も増大します。また、タバコに含まれるニコチンには血圧や脈拍を上昇させる作用があり、これが心臓に大きな負担をかけます。さらに血管にも強い圧力をかけ、血管壁を傷つけるために動脈硬化を促進し、心臓病の誘因となります。

肥満による内臓脂肪の増加

近年、メタボリックシンドロームがさまざまな生活習慣病を引き起こすとして問題になっています。メタボリックシンドロームの土台には肥満、とくに内臓に脂肪がつく肥満があります。内臓脂肪による血圧の上昇や体内で増えすぎたコレステロールが血管の壁に沈着することで動脈硬化が促進され、心臓病のリスクが高まります。

疾患

疾患が原因で胸の痛み(胸痛)が起こる場合があります。突然胸に激痛が走るなど、胸の痛みが主症状となるときは狭心症や心筋梗塞、解離性大動脈瘤(りゅう)、心膜炎、心筋炎、心臓神経症のように心臓に原因があると考えられます。心臓の疾患は死に繋がることもありますから、放置は厳禁です。他にも肺炎、胸膜炎、肺塞栓症、逆流性食道炎、肋間神経痛、帯状疱疹(帯状ヘルペス)、風邪やインフルエンザなど、さまざまな疾患が胸の痛みを引き起こします。

胸の痛み(胸痛)に加えて息苦しさや吐き気などを伴う場合に考えられる疾患

※以下の疾患は、医師の診断が必要です。
下記疾患が心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。

狭心症

心臓の筋肉に血液を送り込む冠動脈が脂質異常症や糖尿病においては、血管が動脈硬化で狭くなり、心筋に血液が不足しやすい状態に陥ります。そして、階段の昇降時や寒い日など心臓に負担がかかったときに、数分程度一時的に酸素が不足して、締め付けられるような胸の痛み(胸痛)や息苦しい発作を起こします。

心筋梗塞

心臓の筋肉に血液を送り込むのが冠動脈です。その冠動脈が動脈硬化を起こして内腔が狭くなると、血液が固まってできる血栓が詰まり、血流が完全に止まってしまうのが心筋梗塞です。突然、胸に激痛が起こり、痛みは30分から数時間続くことがあります。血流が止まると心筋の壊死がはじまり、その範囲が広がると、血圧が低下して顔面が蒼白になるとともに、吐き気や冷や汗などがみられたり、意識を失って死に至ることもあります。

解離性大動脈瘤(りゅう)

心臓から全身に血液を送るための太い血管の大動脈の壁に亀裂ができ、血管の壁の内側と外側の間に血液が流れ込んで血管の壁が裂けてしまう疾患です。原因のほとんどは動脈硬化で、急に血圧が上がったときに起こりやすくなります。突如激烈な痛みが胸に起こり、痛みは背中から腰へと広がります。全身の血流が阻害されることで、けいれん、足の痛み、腹痛、失神や意識障害などの症状があらわれることもあります。

心膜炎

心臓を包んでいる心膜に主にウイルスや細菌が感染して起こると考えられています。感染によって炎症を起こし、多くは左胸に切れるような鋭い痛みを感じ、深呼吸やせきをすると、さらに強い痛みに襲われます。また、体の左側を下にして寝ると痛みが増し、座ったり前かがみになると痛みが軽減するのが特徴です。

心臓神経症

検査をしても心臓には異常が見当たらないのに、胸の痛みを訴えるのが心臓神経症です。過労気味の状態で精神的なストレスを感じたり、心臓病に対して極度の不安を抱えているなど、心の悩みが原因で起こります。安静時に心臓部にチクチク、ズキズキとした痛みが起こり、胸を手で押すとさらに痛みが増します。その他動悸や息切れ、めまい、呼吸困難などの症状があらわれます。

逆流性食道炎

近年増加傾向にある疾患で、暴飲暴食の習慣や加齢、肥満などが原因で胃酸が逆流して、食道に炎症が起こる疾患です。胸やけをはじめ、のどや胸のつかえが起こり、胸が締め付けられるような痛みをともなうこともあります。胸やけは、とくに食後に起こりやすくなります。肥満傾向にある人や、腰が曲がり背中が丸くなったお年寄り、胃の切除手術を受けた人に多くみられます。

肺炎

ウイルスや細菌が肺に侵入し、炎症を起こします。風邪をこじらせたり放置したりしていることが原因の一つです。のどが痛くないのにせきやたんが出たり、高熱が1週間以上続きます。また、呼吸困難の症状があらわれ、炎症が肺を包む胸膜にまで及ぶと、強い胸の痛みを感じるようになります。体力が落ちている人や、免疫力の弱いお年寄りに二次感染症として多くみられます。

肺塞栓症

血の固まりである血栓が肺動脈に流れ込み、詰まった状態です。足の静脈にできた血栓がはがれ、肺動脈に流れ込むことによって起きます。この疾患は肥満や加齢とともに、長時間同じ姿勢で座っていたり、点滴時の大量の空気混入が原因となって起こる場合もあります。急激な呼吸困難や胸の痛み、せき、血たんなどの症状があらわれたり、血圧が低下してショック状態になり、突然死することもあります。

肋間神経痛

肋間神経痛は、体の左右どちらかの肋骨に沿って突発的に激しい痛みを感じる疾患です。痛みは、数秒から長い場合は数分間続きます。肋間神経痛は、帯状疱疹の感染時や、治癒した後の後遺症として起こったり、変形性脊椎症などの脊椎や脊髄の疾患などが原因になります。

帯状疱疹(帯状ヘルペス)

帯状疱疹は、体の中に潜伏していた水ぼうそうのウイルスが再び活性化して起こります。激しい痛みをともなう小さな水ぶくれが体の片側の胸部の肋間神経に沿ってあらわれます。水ぶくれはお腹や背中にできることもあります。水ぶくれは3週間ほどで治まります。日本人のほとんどが持っているウイルスですが、お年寄りや疲れが溜まっている人など、体の免疫力が落ちてきたときに発症しやすくなります。

この疾患・症状に関連する情報はこちら。 帯状疱疹(帯状ヘルペス)(全身)

自然気胸

肺は、直径約0.2mmの肺胞が集まってできています。その肺胞の間に溜まった空気の袋(気腫)が破裂したことが原因で、タイヤがパンクしたときのように肺が急速に縮む疾患です。その際に激しい胸の痛みが起こり、せきが出て呼吸が困難になり、呼吸不全で死に至ることもあります。片方の肺にだけ起こることがほとんどですが、両方の肺に同時に起こることもあります。20代前後、60歳代のやせ型の人に多くみられます。

※以上の疾患は、医師の診断が必要です。
上記疾患が心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。

胸の痛み(胸痛)の異常を感じたら、早めに病院で対処

突然の激しい胸の痛みは、一刻も早く救急車を手配する

突然の強烈な胸の痛みや、それにともなってめまいや冷や汗、息苦しさが起きたときは、命に関わる危険な発作の疑いがあります。一刻を争うので迷わず家族や近くにいる人に救急車を手配してもらいましょう。

病院で診察を受ける

心臓の疾患は、早期発見が重要です。日頃から気になる胸の痛みを感じたら、まずは主治医や心臓専門医の診察を受けるのがいいでしょう。

生活習慣の改善や食生活の見直しを徹底し、胸の痛み(胸痛)の予防を

塩分や脂肪、糖分を控え、早食いを止める

塩分、脂肪、甘い物や糖分のとりすぎは、動脈硬化に繋がっていきます。外食では薄味の物を選んだり、脂肪の多い肉類を避け、ご飯をいつもの量の2/3にするなどの工夫をしましょう。また、いくら栄養に気を配っていても、食べすぎたり、早食いやまとめ食い、ながら食いをしていては食事の摂取エネルギーや脂肪摂取は増加し、その結果肥満を招き、心臓に大きな負担をかけ、動脈硬化の危険性も増します。食事はゆっくりと良く噛んで食べるようにしましょう。

心臓に負担をかけないように運動をする

適度な運動は血液の循環の効率を良くして、心臓への負担を軽くします。しかし、準備体操なしに運動をする、運動の前後や最中にまったく水分をとらない、食事前に運動することなどは、むしろ心臓に悪影響を及ぼします。とくにいままで運動をあまりしていないような人は、疲労困憊するような運動は避け、ウォーキングなどで徐々に体を慣らしていくようにしましょう。

香辛料、アルコールを控える

刺激の強い香辛料、アルコールは胃酸の分泌を促進し、胸やけによる胸の痛みの原因となります。胸やけが起こりやすいという人は、できるかぎり控えましょう。また、食事は3食規則正しくとり、食後30分はゆっくりと休むことも胃の負担を減らすためには大切です。

喫煙を止める

いまさら禁煙をしても意味がないと思っている人も多いはずです。しかし、タバコを止めれば、心臓病によって死亡する確率は1年で半分にまで下がるというデータもありますから、禁煙するのに遅すぎるということはありません。禁煙を成功させるには、徐々にではなくキッパリとタバコを断つのが一番です。そして、吸いたくなったときは体を動かしたり、水を飲んだりするなどの工夫をして気を紛らわせましょう。

急激な寒暖差に気をつける

急激な温度変化があると、急に血管が収縮して血圧が上昇し、心臓に大きな負担をかけます。暖房の効いた室内から外に出るときや、逆に夏に暑い戸外から冷房の効いた室内に入るときにも温度差が出すぎないよう、衣類などで調整しましょう。冬には、トイレや脱衣所・浴室などを温める工夫も必要です。

ゆとりのある生活を送り、ストレスを溜めない

時間に追われる緊迫感や仕事のプレッシャーなどのストレスは、心臓に負担をかける原因となります。疲労やストレスが蓄積しないように、無理のないスケジュールを立て、つねに時間のゆとりをもって行動しましょう。また、少しでも好きなことをする時間をもつこと、十分に睡眠をとることも大切です。

プチメモ混同されやすい狭心症と心筋梗塞の違いは?

混同されやすい狭心症と心筋梗塞の違いは?

狭心症と心筋梗塞は、大きく違う疾患です。とくに心筋梗塞は命を落とすこともありますので、違いを知っておくことも大切です。まず狭心症の発作は坂道や階段を上がったときに起こりやすく、胸や左肩などに締め付けるような痛みが走りますが、安静にしていれば数分以内で治まります。一方心筋梗塞は、多くは早朝や夜中に胸をえぐられるような強烈な痛みが生じます。痛みは30分以上も続き、安静にしていても痛みがおさまることはありません。心筋梗塞の発作が起こったら、一刻も早く救急車を呼ぶ必要があります。