【厚生労働省日本人の食事摂取基準2020策定検討会構成員 監修】withコロナ時代の疲れ。どのように付き合っていけばよい?(食事・栄養編)

外出自粛やテレワーク、ソーシャルディスタンスなど、新型コロナウイルスによって生活環境が一変し、身体が上手く対応しきれていないと感じている方が多いと思います。さらに外出を控える生活に慣れないことで、疲れや不調に悩む人も増えているようです。そこで今、私たちの身体の中でどんな変化が起こっているのか、専門家とリモート対談を実施しました。
今回は、栄養の観点から、ビタミン研究の第一人者の柴田克己先生に、withコロナ時代のニューノーマル疲れの原因や対処法についてお話しいただきました。

(話し手)
柴田 克己先生(甲南女子大学 医療栄養学部 医療栄養学科 教授 厚生労働省 日本人の食事摂取基準2020策定検討会構成員)

(聞き手)
北吉 正人(武田コンシューマーヘルスケア株式会社)

withコロナ時代のニューノーマル疲れ

1その原因のひとつは罪悪感?

(北吉)
2020年4月の緊急事態宣言後、テレワークや在宅勤務を実施する企業が一気に増え、新しい働き方が急激に広範囲に広まりました。「コロナ疲れ」や「テレワーク(リモート)疲れ」「在宅疲れ」というような表現も多く目にします。
疲れの原因のひとつとして、慣れない環境による作業で起こる姿勢の変化や、何をするにも画面を通じて行ったりするなど、目・肩・腰を酷使してしまう状況があげられると思いますが、そのほか環境の変化で、疲れを感じる原因はどんなことが考えられるでしょうか?

(柴田先生)
やはり栄養状態も変化していることが想像され、それによる体調の変化が心配されます。専門分野の栄養学とは少し違う角度からお話しを始めたいと思いますが、私は疲れの原因のひとつに、罪悪感があると思っています。したいこと、しなければならないことは山ほどあるのに、自宅でおとなしくしていなければならないことへの罪悪感、在宅勤務に慣れず、仕事がはかどらないことへの罪悪感など。仕事やプライベートの活動が制限され、自由に行動・活動できないことのストレスを、罪悪感として感じているのです。その罪悪感から抜け出すには、生活を整えることが大切と考えます。
そのひとつの対処法として、睡眠時間や生活リズムを記録できるアプリを利用してみるのも手です。自分が規則正しい生活をしているというデータが出れば、ある程度罪悪感というものも軽減されると私は思っています。
重要なのは、生活を整えるということには、当然栄養摂取状況も含まれるので、そちらについては次の話題で詳しく述べたいと思っています。

withコロナ時代の栄養状態

1栄養状態の変化は疲れに関係がある?

(北吉)
疲れの原因として、外食から自宅中心の食生活になるといったことなどが影響して、栄養状態が変化したことも関係があるということでしょうか?

(柴田先生)
大いにありますね。リモートワークが続き集団生活ができなくなると、食べ物が自分の好みに偏りがちになりますし、食事の時間がバラバラになったり、1食抜いたりと、規則正しい食生活が送りづらくなります。手軽に摂りやすいものばかりを食べ始め栄養が偏ると、疲れ、だるさや不調を感じやすくなります。もともと人間の身体には1週間程度の栄養の偏りには対処できる代謝能力がありますが、withコロナの時代と言われるように長期にわたると対応困難となり、知らず知らずのうちに徐々に体力が低下します。
ですから疲れにくい体をつくるには、食事を1日3食しっかり摂ること、バランスの取れた食事をするということが大切になってきます。

(北吉)
具体的に、バランスの良い食事とはどんなものでしょうか?

(柴田先生)
エネルギーを産生する栄養素である、たんぱく質、炭水化物、脂質、この3つのバランスが重要です。
エネルギー不足になると疲れなど体調の変化が起こり得ます。食べ物からつくるエネルギーと生活で使うエネルギーの量が適正かどうかという一番良い生体指標は、体重測定です。毎日体重を測って、年齢によって目安は異なりますが、体重と身長から算出される肥満度を表す体格指数「BMI」を計算することを習慣づけ意識することが大切です。

①炭水化物の摂取が増えると疲れの感じ方に影響?
(北吉)
たんぱく質、炭水化物、脂質、この3つの栄養バランスが重要とのことですが、炭水化物は手軽に摂りやすいということもあって、コロナ禍において摂取量が増えているといったデータがあります。これは国が行っている家計調査によるものですが、米、パスタ、カップ麺、即席麺の摂取量が、2020年4月は2019年4月と比べて増えています。

バランス良く栄養を摂りたいと思っている反面、手軽さゆえにどうしても偏ってしまう人もいると思いますが、炭水化物の摂取量が増えると、身体の中でどんな変化が起こるでしょうか。

(柴田先生)
食事で摂取しているカロリーがあまりかわらないのであれば、炭水化物が多くなるということは、脂肪の摂取量が下がっている状況でしょう。そうすると結果として、筋肉が疲労しやすくなり疲れを感じやすくなることもあると考えます。
どういうことかと言うと、私たちは運動を伴わない通常の日常生活では、脂肪酸を主なエネルギー源として利用しています。脂肪酸は脂質だけからではなく、炭水化物由来のブドウ糖(グルコース)からも合成されてストックされており、必要時に使っているのです。
つまり、体を動かさない状態で使われているエネルギーは、出発点はグルコースでも、実際に使っているのは脂肪酸だということです。
炭水化物の摂取が多く、脂肪の摂取量が少なくなると、炭水化物のグルコースから脂肪酸を合成する必要があります。
グルコースから脂肪酸を合成するには、ビタミンB1が必要となります。これは世の中的に案外知られていないビタミンB1の重要な働きです。ですから、ビタミンB1が不足しているとエネルギーをうまく作り出せず、結果的に疲れを感じやすくなるということです。

炭水化物の摂取量が多い人は、エネルギー代謝にかかわるビタミンB1などの微量栄養素の需要が身体の中で増しているといえます。

②疲れやすい身体になるのは、オンライン飲みも関連が?
(北吉)
家での飲酒習慣の変化もあり、前出の調査によると、二人以上の世帯における、酒類消費支出の対前年同月増減率が、なんと21%増だそうです。リモート飲みの流行や、家にいる時間が長くなり楽しみが減ったことで、アルコールで憂さを晴らすという人が増えたのかもしれません。これについては、いかがでしょうか?

(柴田先生)
家だとダラダラ飲み続けてしまいますからね。アルコールが身体のなかで分解される時アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)という酵素が作用します。しかし、アルコールを大量に飲んだ場合は、ALDH2だけでは分解が追い付かなくなり、違う方法で分解されるのですが、その時にビタミンB1の必要量が多くなります。そのため、たくさん飲めばそれだけビタミンB1も多く必要になるのです。

前述のとおりビタミンB1はエネルギー産生に必要ですから、不足すると疲労を感じるようになります。お酒を飲むなとはいいませんが、飲むなら、きっちりと必要な栄養素が摂れる“あて(関西の言葉でおつまみのこと)”と一緒に飲むことが大切です。あては好みもありますが、ビタミンやミネラルが豊富なナッツ類が良いでしょう。
アルコールはエネルギー源となります。栄養学では1 gのエタノール(お酒に含まれるアルコール)摂取は7 kcalを摂ったと計算します。ビールのアルコール濃度は5%程度です。350 mlの缶ビールを1本飲むと、大雑把な計算方法ですが(350 g×0.05 = 17.5 g)、17.5 gのエタノールを摂った、つまり、122.5 kcalを摂ったことになります。成人男子が1日当たりに必要とするカロリーは2,500 kcal程度ですので、缶ビール1本の飲酒によるカロリー寄与率は(122.5kcal÷2500kcal≒0.05)、5%程度ということになります。食事しながら飲酒するとついついカロリー過多となるので、食事量を減らしてしまうという方には、ビタミン剤を摂取したり、ビタミンが多く入っている“あて”をあえて選ぶなどして、お酒と上手に付き合うのも「乙なもの」かもと思います。

③眼精疲労にはビタミンB1がおすすめ
(北吉)
今回のリモート対談もそうですが、オンライン会議が定着し、今まで以上に画面を見る機会が増えたように感じます。また家で過ごす時間が長くなり、スマホで動画を見たり、ゲームをしたり、目を酷使するシーンが最近増えてきていますよね。眼精疲労の対策について教えていただけますでしょうか?

(柴田先生)
眼精疲労は単なる眼の疲れ(眼疲労)とは異なります。眼疲労は寝たり、リラックスするなどしばらくすると取れますが、眼精疲労は自然には治りません。眼精疲労は首や肩などへの影響を含み、肩こりや首の張りといった症状も助長します。スマホやパソコンの利用などで同じ姿勢をずっと保っていると、姿勢を維持する筋肉を酷使し固くなり、血液循環が悪くなったり、老廃物が溜まるなど、不調の原因にもなり得ます。

(北吉)
ストレッチや定期的に身体を動かすのも大切と思われますが、それだけでは解決しない眼精疲労もあると思います。栄養面で対処する方法については、先生いかがでしょうか。

(柴田先生)
眼精疲労が気になっている方で、あまりたんぱく質を意識的に摂っていないという場合は、動物性たんぱく質(肉など)を積極的に摂ると良いでしょう。ビタミン=野菜類というイメージが強いですが、それはビタミンCや葉酸などで、すべてのビタミンが豊富に含まれているわけではありません。実は肉の赤みの部分には、ビタミンB1をはじめとしたビタミンB群のほか、脂肪酸の合成に必要なナイアシンもセットで含まれており、ビタミンの種類を摂るには肉が一番良いと考えています。
それでも足らない場合に備えて、ビタミンB1などの多くの種類のビタミンが入っているビタミン剤などを上手に取り入れるのも良いと思います。
これはひとつのトピックスですが、ビタミンB1が配合されるビタミン剤はのんだ後の尿に独特な香りを感じたり、ビタミンB2が配合されている場合は色の変化(黄色)を感じることができます。これは充分にビタミンが摂取できていることの証拠であるともいえますので、このサインは非常に有用です。

柴田先生から読者へのメッセージ

1withコロナ時代のニューノーマル疲れに悩んでいる方へ

(北吉)
最後に、withコロナ時代のニューノーマル疲れに悩んでいる方にメッセージをお願いします。

(柴田先生)
個人の置かれている環境によって、疲れ、ストレスなどの感じ方に違いはあると思います。まずは自分の身体の状態を知ることから始めましょう。体重の変化も指標になりますし、規則正しい生活を送るために、普段の行動を見える化できるアプリを活用するのもありです。
前にも述べましたが人間は短期、1週間ぐらいの栄養素のアンバランスは回避できるような代謝能力がありますが、withコロナ時代のように長期間となると困難です。栄養バランスに偏りがあると、疲れやすくなったり、知らず知らずのうちに徐々に体力が弱っていきます。現状を知ってから、自分に合ったバランスの良い食生活について考え、食事摂取基準を目安にしながら、必要量を摂ることを心がけると良いでしょう。

今の自分に何が必要なのかが分かれば、生活に上手に取り入れることができ、withコロナ時代も疲れを感じにくいより快適な日々が送れると思います。

柴田先生おすすめ! バランスよく栄養を摂るために
このwithコロナの時代、しっかり食事を摂る・バランスよく摂ることが大切ですが、具体的にどうすれば良いのでしょうか。
私たちの身体は三大栄養素(糖質・脂質・たんぱく質)からエネルギーをつくっています。この中で特に意識して摂っていただきたい栄養素がたんぱく質です。たんぱく質は体重1kgあたり1g摂るようにしましょう。たんぱく質が多い食べ物として牛豚鶏などのお肉が挙げられますが、食べたお肉の約20%、卵であれば約10%がたんぱく質とイメージしてください。例えば、1日に卵を2個食べて100g、獣鳥肉類を150g、魚を150g食べると、大雑把に言ったら摂れるはずです。
微量栄養素について、特に日本人で摂りにくいのはビタミンB1、鉄、カルシウムです。この三つが日本の家で食べる伝統的な食事では不足気味になります。いずれも食事摂取基準において具体的な数値が設定されていますが、量には幅があります。ですので、その数値を覚えるというよりは、概数をおさえることが大切です。ビタミンB1であれば1日あたり1mg、鉄だったら1日あたり10㎎、カルシウムは体重によって違うので、キリのいい数字で1kgあたり10mgを摂りましょう。
とはいえ、これらの値はあくまでも代表値であって、それが本当に身体の中に入って利用されるかどうかはわかりません。ですから、食事で補えているかどうか不安な場合はビタミン剤を適正に摂取することもおすすめです。

プチメモ-

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