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トンキンニッケイ

クスノキ科 Lauraceae(生薬名:ケイヒ(桂皮)、Cinnamomum cassia Blume)

トンキンニッケイ

トンキンニッケイ
トンキンニッケイ

 多くの漢方処方に配合される桂皮ケイヒは、同じものが香辛料シナモンとしても利用される。桂皮の名前になじみがない方でも、シナモンならご存じなのではないだろうか。クッキーやケーキ、またカレーやハンバーグなどの肉料理にしばしば加えられる、あの茶色い粉末である。日本では原料植物が育たない香辛料であるが、意外と伝統的な和菓子にも使われており、その典型例の一つが京都銘菓の八つ橋である。
 近年、日本でシナモンとして使われるものは、主としてアジアの熱帯から亜熱帯地域で生育するカシアと呼ばれる種類のシナモンである。世界には、原料植物の種類が異なるシナモンが複数あるが、このカシアは漢方で使われる生薬の桂皮と同じ植物(トンキンニッケイ)由来のシナモンである。
 カシアはベトナムと中国南部地域が主産地であるが、収穫期は3月下旬から5月初旬である。秋にも収穫するが、量的には春の方が圧倒的に多い。使用部位が樹皮なので、木を収穫するだけでは駄目で、その樹皮を剥がさねばならない。樹皮を剥がすには、芯材と樹皮の境目にある形成層が活発に増殖中であることが必要で、熱帯モンスーン地域では乾季と雨季の変わり目にあたり、それがちょうど前述の日本の早春からの時期に相当するのである。
 収穫したてのカシアは非常に香りが強く、ジューシーで、近寄ると目が痛いほどにおい成分を揮発している。これを乾かして製品に仕上げていくのだが、時期的に雨季に入っていく時分であるので、乾燥には苦労を伴う。

収穫した樹皮の乾燥

トンキンニッケイ

 シナモンの味は、甘くて辛い。日本薬局方「桂皮」の項にも、味は甘くて辛いことが記されている。使用部位が樹皮であるので多少砂っぽい食感があるかもしれないが、品質が良いとされるものほどザラザラした食感は少なく、甘味と辛味が強い。また、精油含量が多いほど良質とされる。シナモンの精油組成の大部分を占めるのはケイアルデヒドという化合物であるが、このにおいがいわゆるシナモンのにおい、ニッキのにおいである。
 植物精油を構成する化合物は揮発性が高く、においについては色々な知見があるが、それぞれの化合物の味についてはあまり情報が多くない。しかし、含量が多くなればにおいだけでなく味にも影響を及ぼすはずである。例えば、チョウジの精油成分であるオイゲノールは歯科領域でもしばしば利用される化合物であり、味は甘いことが知られている。また、シソの精油成分ペリルアルデヒドは苦い。そこでケイアルデヒドについて味見してみると、甘くて辛いのである。一つの単純な構造の化合物が、甘味と辛味という相反する二つの味を呈することは驚きであった。
 さらに調べると、ケイアルデヒドの希薄水溶液は濃度によって甘味と辛味の感じ方が少々異なるようで、薄いと甘味がより強く、濃くなると甘味よりは辛味が強く感じられるような傾向があったのである。これでふと思い出したのは、ニッキ水である。ニッキ水はシナモン(=ニッキ、桂皮)の風味をつけた飲料水で、砂糖の入手が難しいときに、子供向けの甘い味を楽しむ飲料水として重宝されたものだが、これは薄いケイアルデヒド水溶液の甘味をうまく利用していたということではないだろうか。
 もっとも、第二次世界大戦より前の時代は、ニッキというとカシアではなくて、温帯で生育可能なニッケイ(注:肉桂ではなく日本のケイ)の木の根を利用することがあった。地方によってはチリチリと呼ばれるニッケイの細根を束にして、甘味を楽しむ子供のおやつとして売っていることもあった。ニッケイは日本の気候条件でも育つので、生薬の桂皮が入手できない時期はその代用品としても使われたといわれるが、樹皮にはケイアルデヒドはほとんど含まれず、根の皮に比較的多く含まれるので根を利用する。最近はもうほとんど使われなくなった薬用資源である。

解説:伊藤美千穂(京都大学大学院) 撮影場所:京都薬用植物園 ベトナム チャーミー村

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