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夏の不調、実は「冷え」が原因かも

夏の不調、実は「冷え」が原因かも

〈話し手〉 新井 信 Makoto Arai(東海大学医学部専門診療学系漢方医学 准教授)

 夏場の不調といえば、真っ先に浮かぶのが「夏ばて」ではないでしょうか。日本の夏は、気候が高温多湿なため、昔から暑気あたりや食欲の減退などで、体調を崩す人が少なくありません。しかし最近では、暑さというより、エアコンなど冷房環境の普及による「冷え」を原因とする不調が増えているようです。
 また、冷えている本人は自覚がなく他の不調を意識してしまい、根本にある冷えの治療は見落とされがちです。そこで、冷えの解説や改善策について、漢方医学の専門医・新井 信先生にご解説いただきました。

自覚がない若い女性の「冷え」

 まずはどれくらいの人が冷えているのか、調査結果から紹介します。
 私は2002年に、長野県長谷村の成人1,199人を対象に、一般の方たちがどのような症状を抱えているのかを早稲田大学と共同調査しました。そのとき、高血圧や糖尿病などの生活習慣病以上に、「手足が冷える」「寒がり」「夜、トイレ(排尿)に行くことが多い」「風邪をひきやすい」など、冷えとの関連が考えられる症状が多いことがわかりました。また、「腰や手足が冷えやすい」との回答者は、男性では高齢者に、女性には若年層に多いですが、特に30歳前後の女性では8割以上にのぼりました(図1)。

「腰や手足が冷えやすい」という症状の年齢層別出現頻度

図1 「腰や手足が冷えやすい」という症状の年齢層別出現頻度

長野県長谷村のフィールド調査結果から(n=1,199)

 若年女性に「冷え」が多いことは、別の調査でも報告されています。この調査は、東京女子医科大学附属東洋医学研究所の外来に通院する20~25歳の女性患者さん181人を対象にしたもので、冷え症状を理由に受診していた患者さんは、わずか3%だったものの、患者さんの74%に「冷え」がありました。しかも、調査対象となった患者群と同年代の女性の医学生189人に行った調査でも、全員が自分は健康だと思っていたにもかかわらず、35%に冷えがありました(図2)。

若い女性の「冷え」

図2 若い女性の「冷え」

盛岡頼子、他:若年女性における潜在的漢方治療適応者の検討.漢方の臨床40(7);10-12,1993

 つまり、健康だと思っている人の中でも3人に1人は冷えがあるということです。若い女性の多くが冷えを抱えているにもかかわらず、それを問題だと捉えていないことが多いのです。また、冷えがある人を対象に検討したところ、月経不順や易疲労感が、冷えがない人に比べて多いことも分かりました。冷えは全身のバランスを崩れさせ、様々な症状を引き起こすと考えられるのです。

夏場の冷えは、エアコンの冷房が原因

 冷えの原因には、大きく分けて二つ考えられます。
 一つは、「新陳代謝の低下」です。「夜間にトイレ(排尿)に行くことが多い」「腰や手足の関節が冷えて痛む」「寒がり(低体温)」などの症状が該当します。こうした冷えは、高齢者を中心に、体力・抵抗力が低下した人に多い傾向があります。また、胃腸が弱く、体力が低下した人では、下痢、腹痛、腹部膨満感、便秘など消化管を中心とする冷えによる症状もみられます。
 もう一つは、「手足の先の血行不良」です。これは、寒冷に曝されることで起こると考えられています。外部の気温が下がると、人間の体は重要な臓器が集まる中心部の体温(深部体温)を保とうとして、手足の先の細い血管を絞めます。そのため、手足の先の血流が低下して冷たくなるわけです。暖房設備が整っていなかった時代は、冬場を中心に冷えがみられ、しもやけの原因にもなっていました。
 ところが、現代社会では、夏場にもエアコンの冷房を原因とする血行不良がみられるようになりました。しかも、極端に温度差がある室内と屋外の出入りを繰り返すことが、自律神経の乱れにもつながるため、冷えの症状はさらに複雑化してしまいます。
 このように、冷えの原因は一つではありません。また、冷えから起きる症状は様々です(図3)。
 問題は、前述の調査結果でも示されたように、様々な症状の裏に冷えがひそんでいることを、私たちが自覚していないことです。これらの症状があれば、冷えのためではないかと考えてみることが大切です。

温めて緩和される症状は「冷え」が原因

 冷えによって増悪する症状はこれだけあるにもかかわらず、意外と気がつかないため、意識してみないとわかりません。様々な症状の裏にひそんでいる「冷え」を見つける方法は、温めることで症状が軽減あるいは消失するかどうかをみることです。もし、入浴や暖房などで症状が軽快するようであれば、「冷え」と考えてよいと思います。逆に、冷えると具合が悪くなるというのもひとつのポイントになります。具体的には、「スーパーの冷凍食品売り場の冷気に当たっても大丈夫か、お腹が痛くなったりしないか」といったことで考えることができます。私の患者さんには、コンビニのおでん売り場には行けても、アイスクリーム売り場に行けない、という人もいるくらいです。

冷えから起きる諸症状

図3 冷えから起きる諸症状

冷えの改善には漢方薬の活用も

 西洋医学には「冷え」という病名はなく、「温める」などの対症療法しかありませんが、漢方医学では「冷え」が単なる気候や体質によるものではなく病気の一つと捉え、その根本治療を目指します。そのなかでも、現代社会で最も多く、夏場にも増えている、若年女性の冷えに適した漢方薬を紹介したいと思います。
 最近の若年女性はやせ型の人が多く、冷えがあるような場合には、顔色がすぐれなかったりむくみや疲れやすいといった症状もあわせ持っていたりすることがよくあります。そういった人には血行不良があると考えられ、私は「当帰芍薬散とうきしゃくやくさん」を処方しています。当帰芍薬散は、当帰とうき川芎せんきゅう芍薬しゃくやく白朮びゃくじゅつ沢瀉たくしゃ茯苓ぶくりょう、という六つの生薬で構成されています。
 当帰と川芎は手足の先の血流(末梢循環)を、芍薬や白朮は血管や消化管の働きをそれぞれ改善し、沢瀉と茯苓は冷えに関わる体内の水分量を調整しますので、いずれも「冷え」の改善に期待できる生薬です。また「冷え」症状を抱える若年女性は、胃腸が弱いことも多いので、体を温め、弱った胃を改善する作用がある人参を当帰芍薬散に加えた処方「当帰芍薬散加人参とうきしゃくやくさんかにんじん」もよいでしょう。この人参が胃腸の機能を助けるということは古来の医学書にも多く記載があり、私もしばしば処方に加えることがあります。

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http://takeda-kenko.jp/yakuhou/library/plant/vol17.html
コラム

「冷え」を放置すると、症状がより複雑に

実際に、冷えに悩んで漢方外来を受診され、
改善した患者さんの一例を紹介します。

 ある20代前半の女性の患者Aさんは、10歳のころから、気温が低くなる冬はもちろんのこと、夏の冷房でも手足が冷えて痛むことがよくありました。思春期を迎えると、いつも冷えを感じるようになり、生理のたびにひどい月経痛で動けなくなることもしばしばでした。

 やがて社会人生活が始まり、夏は会社の冷房で体が冷やされると、頭痛や下痢、吐き気なども起こすようになりました。そうした日は、退社時間になると倦怠感と激しい眠気に襲われ、股関節や腰が痛み、鼻血まで出ることがありました。

 あまり症状がひどいので、何度か会社の近くのクリニックに相談にいき、いろいろな検査も受けましたが、「冷え」以外には特に異常は見つからず、「冷え症だから、温かくして、栄養価の高い食事と運動を心がけなさい」と指導されただけでした。
 しかし、冷えの症状は改善されず、友人に打ち明けると漢方を勧められ、私の漢方外来を受診されました。

●漢方薬で「冷え」が改善

 初診時の問診で、Aさんは「お風呂に入ると楽になる」とおっしゃっていたので、私は様々な症状がやはり「冷え」によるものと考え、体を温め、血行を改善する漢方薬を処方しました。そうすると、週単位で少しずつ症状が改善され、半年後にはすっかり元気になられました。Aさんは現在、結婚もされ、お子さんも生まれて、たいへん幸せそうに毎日を送られています。
 漢方では、「冷え」を病気と考えます。「冷え」は万病のもとと考え、ぜひ漢方での治療をお考えいただきたいと思います。

生活習慣の見直しも

 江戸時代の儒学者である貝原益軒かいばらえきけんは、彼が著した健康指南書の『養生訓ようじょうくん』の中で、「夏は、汗が出て皮膚が大いに開くため、そこから外邪がいじゃが侵入しやすい。だから、涼風に長く当たってはいけない」と説いています。外邪とは、「体に悪影響を与えるもの」「病気の原因になるもの」といった意味ですが、まさにエアコンの冷気も外邪と考え、適温に調整することも重要ではないかと思います。また、コーヒーや緑茶などのカフェインが含まれる飲み物や喫煙は、「冷え」を助長することがわかっていますので、過剰な摂取は控えるべきだと思います。
 漢方薬の効果を最大限に得るためには、こうした生活習慣の見直しも必要です。ぜひ、そうしたことにも念頭に置いて、冷えや冷えが原因の不調の改善を目指していただきたいと思います。

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