麻痺

体の麻痺にはまったく自由がきかなくなる状態と、少し動かせる状態があります。脳・脊髄からなる中枢神経、中枢神経と体の各器官を結ぶ末梢神経、神経と筋肉の接合部や筋肉の異常などが原因で起こり、症状は主に手足や顔面などにあらわれます。全身の麻痺が起きた場合は重い疾患が疑われることもあります。

日常生活から考えられる原因

1自然毒による食中毒

フグの卵巣や肝臓に含まれる毒によって中毒を起こすと、食後20分~3時間で唇や舌の先がしびれ始めます。
その後、嘔吐に続き、神経や呼吸をするときに使う筋肉が麻痺して呼吸困難となり、危険な状態に陥り死に至ることもあります。ホタテガイやイガイなどの貝に含まれる毒も、手足の麻痺を引き起こします。また、きのこや野草の中にも手足のしびれや麻痺などの中毒症状を起こす危険なものがあります。

2長時間同じ姿勢を続けるワークスタイル

いすに座って長時間パソコンに向かっている人、自動車の運転時間が長い人は、同じ場所を常に圧迫している恐れがあります。長時間神経が圧迫されることで、麻痺が起こることがあります。

3麻痺の原因となる主な疾患

脳梗塞や脳出血、ウイルス性脳炎は脳の中枢神経が障害を受けることで、体の片側に麻痺が生じます。末梢神経が圧迫されて、体の片側に麻痺が起こる疾患には、顔面神経麻痺、橈骨(とうこつ)神経麻痺、手根管(しゅこんかん)症候群、変形性腰椎症、腰椎椎間板ヘルニアなどがあります。また、末梢神経の障害によって体の片側に限らず、さまざまな部分に麻痺が起こる疾患には、重症筋無力症などがあります。

麻痺をともなう疾患・症状

1脳梗塞、脳出血

脳梗塞は脳の血管に血液の塊(血栓)が詰まることによって、脳の組織が破壊される疾患です。脳出血は脳内の血管が破れて出血する疾患で、脳の中にできた血液の塊が周囲の組織を圧迫すると脳の障害が進みます。大脳、小脳や脳幹部にこれらの障害が起きると、激しいめまいや頭痛、吐き気、嘔吐などの症状とともに、障害された脳の反対側の手足に麻痺が起こります。

2顔面神経麻痺

顔の筋肉を支配している顔面神経がおかされることによって、主に顔の片側に突然麻痺が起こり、まぶたが完全に閉じなくなったり、頬や口角がたれ下がり、口の中の食べ物やよだれが垂れるなどの状態になります。脳出血や脳梗塞による半身麻痺、帯状疱疹ウィルスの感染による神経の障害、極端に顔の片側だけを長時間冷やすことなどが原因になります。

3橈骨(とうこつ)神経麻痺(ハネムーン症候群)

手首から親指の感覚に関係する橈骨神経が損傷を受けると、運動障害や知覚障害が起きることがあります。手首から先に力が入らなくなり、指を伸ばすことができなくなることが特徴で、親指と人差し指の間にしびれを感じることもあります。多くは、腕枕をして眠るなど、腕の神経が長時間圧迫されることで発症します。

4手根(しゅこんかん)管症候群

手の関節にある手根管はトンネルのようになっていて、その中を神経と腱が通っています。手根管の中で神経が慢性的に圧迫されると、親指から薬指の半分にかけてヒリヒリとする痛みやしびれがあらわれます。症状が悪化すると、片方の手のひら全体に麻痺が起こることもあります。デスクワークでパソコンをよく使い、かつキーボードを打つときの姿勢が悪い人によくみられます。また妊娠や出産時に体がむくみ、神経が圧迫されて起こることも多いといわれています。

5変形性腰椎症

腰の背骨が変形して周囲の神経を圧迫し、腰痛や足の痛みを引き起こす疾患です。とくに朝の起床時に強く痛むことが多く、神経の圧迫が強くなると足のしびれや冷感、麻痺などの症状が起こる場合があります。さらに進行すると、体の片側の下半身全体が麻痺することもあります。加齢による背骨の変化や、長時間同じ姿勢をとったり、スポーツなどによる腰の背骨への負担が原因となります。

6腰椎椎間板ヘルニア

骨と骨をつなぐ椎間板に亀裂が生じて、中の椎間板組織の一部が飛び出し、神経が圧迫されて腰痛や足のしびれ、麻痺などが起こります。急性の場合は、立ち上がれないほど激しい痛みが生じます。ひどい場合は、体の片側の下半身に麻痺を起こすこともあります。若い人にも比較的多く、腰や足のつっぱり、運動制限があらわれることが多くあります。お年寄りの場合、足の痛みが強く、歩行が困難になることが少なくありません。

7糖尿病性神経症

糖尿病は膵臓でつくられるインスリンの分泌や作用が低下し、血糖値が慢性的に高い状態になる生活習慣病です。この糖尿病によって、長期間高血糖状態が続くことが原因となって起こるのが糖尿病性神経症で、運動神経・知覚神経系が損なわれ、手足の先にしびれや痛みが起きます。症状が進むと足の筋肉が萎縮し、力が入らなくなったり、熱さや痛みを感じなくなります。

8重症筋無力症

末梢神経と筋肉のつなぎ目に障害が起こり、筋力が低下して麻痺が生じる疾患です。とくに同じ筋肉を繰り返し動かしていると筋力が疲弊し、足が麻痺してうまく歩けなくなったり、まぶたが落ちてきたり、手に持ったものを落とすなどの症状があらわれます。のどに障害が起こると食事や呼吸が困難になったり、顔に障害が起こるとうまく表情がつくれなくなることもあります。しばらく休むと症状が回復するのが特徴です。

日常生活でできる予防法

1フグや貝類は市販品を食べる

フグ毒による死亡例の多くは、自分で釣ったフグを家庭でさばいたことによるものです。フグ調理師の資格がない人が調理したフグは、絶対に食べないようにしましょう。また、貝毒が検出された貝は、出荷規制措置がなされて市場には出回らないようになっていますので、安全のためにも市販品以外の調理は止めましょう。

2素人が摘んだきのこや山菜は食べない

毒きのこや毒草は、食用のきのこや山菜とほとんど見分けがつきません。誤って食べると手足の麻痺や呼吸麻痺などを起こすものもありますので、素人判断で食べるのは止めましょう。

3体の一部を圧迫するような姿勢をとらない

パソコンの作業でずっと手首を圧迫したり、姿勢の悪い座り方で腰やお尻を圧迫していると、麻痺を引き起こします。軽く伸びをするなど、ときどき姿勢を変えて体を緊張から解きほぐしてみましょう。

対処法

1病院で診察を受ける

手足が動かない、だらんと垂れ下がる、顔がこわばって表情をつくることができないなどの症状があらわれたときは、脳や神経などの重い疾患が疑われます。早急に主治医や神経内科あるいは脳外科を受診しましょう。

プチメモ分娩麻痺とは?

難産や逆子で生まれたときなどに、新生児に物理的な力が加わることによって起きる末梢神経や筋肉の損傷による麻痺を分娩麻痺といいます。損傷した部分によって麻痺のあらわれ方が異なり、腕の動きをつかさどる神経がおかされると、片方の腕が垂れたままになり、顔の神経がおかされたときは、泣くと口が歪んで見えたり、まぶたをきちんと閉じられなくなります。横隔膜の神経が損傷した場合は呼吸がうまくできないなどの症状がみられますが、末梢神経障害の多くは一時的なもので、分娩麻痺も1~2カ月くらいで軽くなります。