寝違えたような痛みがあり、首を動かせない
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首が回らない

首が回らない、動かしにくいと感じた経験のある人は多いはず。寝違えたような痛みでも、油断してしまう人がいるかもしれませんが、注意が必要な場合もあります。 ここでは、首が回らない症状が起きる原因や潜んでいる病気・対策を専門医監修のもとご紹介します。

手塚 正樹 先生

監修

手塚 正樹 先生 (高砂慶友整形外科 院長)

「首が回らない」とはどのような状態?

頭と首は、背骨といわれる脊椎(せきつい)の一部である頸椎(けいつい)と何層にも重なった筋肉によって支えられています。この頸椎を形づくっている椎骨(ついこつ)や椎間板(ついかんばん)、その周辺の筋肉に異常が起こると、首の神経が圧迫されて痛みが生じ、首を動かせなくなることがあります。首が回らなくなるような痛みは、筋肉のこりや首の骨のトラブルによる神経の障害で起こります。さらに部位とは直接関連しない病気が原因となる場合も。

首(頸部)の構造・働き

首は動かせる範囲が広く、前方は約60度、後方または左右には約50度倒すことができます。さらに頭部を起こしたまま左右に約70度ねじることもできます。また、頭部を前に倒して下の方を見るときには、首の筋肉が適度に伸びて必要以上に倒れないような働きもしています。

成人だと約67㎏の重さの頭部を支えながら、倒したり引き上げたりするので、首には相当な負担がかかっており、疲労しやすい部位です。

①首の構造(筋肉と骨)

首は、7つの椎骨が積み重なった頸椎(脊椎の首の部分)と、その周囲を幾重にも覆う胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)や僧帽筋(そうぼうきん)などの筋肉で支えられています。

②頸椎の構造

Intervertebral disc-400.jpg頸椎は背骨(脊椎)の一部であり、背骨の中を縦に走る後縦靭帯(こうじゅうじんたい)などで補強されています。脊椎の中には脊髄(せきずい)が通り、脊髄から末梢神経の根元にあたる神経根が伸びています。脊椎を構成する椎骨と椎骨の間には軟骨と繊維でできた椎間板があり、骨同士がぶつからないようにクッションの役目を果たしています。

首が回らなくなる原因

寝違え

眠りから目覚めたときに首の後ろから肩にかけて現れる痛みの状態を寝違えといいます。呼ばれて振り向いた瞬間に首を動かすことができなくなるのも同じような症状です。実は、寝違えが起こるメカニズムは解明されていません。就寝中に同じ姿勢を取り続けたために一部の筋肉で血液の供給不足が起こってしこりができる、普段はしないような労働をすることで一部の筋肉が痙攣している、頸椎の後ろ側の椎間関節を覆っている関節包に炎症が起こる、などが原因として考えられています。飲酒後や疲れ果てての睡眠などでは寝返りが少なくなり、同じ姿勢が続くことで寝違えが起こりやすくなります。

パソコン・スマートフォンなどの使い過ぎ

頭部を固定するような姿勢が長時間続くと、頸部の筋肉が緊張し、血液の循環が悪くなり、老廃物が蓄積。これによって神経が圧迫され首の痛みやこりが起こります。

また、頸椎は本来、緩やかなカーブ(弯曲)を描いていますが、このカーブが失われ、まっすぐな状態を「ストレートネック」といい、特定の椎骨に大きな負担がかかり、首の痛みや頭痛などさまざまな症状を招いてしまいます。若い人に多く見られ、パソコンやスマートフォンなどの操作のために下を向く姿勢をとり続けることが原因と考えられます。

スポーツや交通事故などで首を痛めたとき

準備運動をしなかったり、運動不足の人が急にスポーツを始めたりするとケガを招くことも少なくありません。特に体をひねる動作は、首や肩の筋肉を痛めて首が回らなくなることがあります。

また、車の追突や衝突などの交通事故、ラグビーなどのスポーツで激しく衝突したときなどに頸椎の捻挫が起こり、首の痛みや頭痛、首や肩が動かしにくいなどの症状が出ることがあります。

運動不足

運動不足のように筋肉を動かさないで長時間、同じ姿勢の状態が続くと、筋肉が緊張状態に陥ってしまい、血管が収縮し血流量が減少します。その結果、筋肉に酸素が行きわたらなくなり、疲労物質が増加、首や肩の筋肉が炎症を起こして痛みを感じるようになります。

首が回らない症状をともなう代表的な病気(疾患)

首が回らない症状をともなう病気

首の症状は、首の骨周辺の異常による病気の他に、全身性の病気によって生じることも。ここでは代表的な病気をご紹介します。

※以下の疾患は、医師の診断が必要です。 下記疾患が心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。

頸椎椎間板ヘルニア

背骨に伝わる衝撃を吸収する役目を果たす椎間板は、中央にゼラチン状の髄核(ずいかく)とそれを取り囲む繊維輪という軟骨からできています。この椎間板が老化などでもろくなり、過剰な負荷によってつぶれ、中身の髄核が飛び出した状態を椎間板ヘルニアといい、首の骨(頸椎)の椎間板に生じたものが頸椎椎間板ヘルニアです。

飛び出した髄核が脊髄や神経根を圧迫すると、首を後ろ向きに動かせなくなったり、背中や左右の腕の痛みやしびれ、脱力感、手足の麻痺などの症状が現れます。時に脊髄への圧迫が強いと、足先から太ももなどにも麻痺やしびれが生じることも。

頸椎症(頸部脊椎症)

筋肉疲労によって生じるこりを除いて、首の症状を招く原因の中でもっとも多い病気が頸椎症です。年齢を重ねると頸椎の椎間板が変性して弾力性が失われたり、椎骨に骨棘(こつきょく:骨のトゲ)ができたりします。これにより脊髄や神経根の通り道が狭められ、頭痛、首や肩のこりや痛み、頸椎を動かせる範囲が制限されるなどの症状が現れます。

さらに、骨棘が神経根を刺激すると、首から肩、腕にかけて強い痛みが走り、特に首を反らすときに痛みが生じます。骨棘により脊髄が圧迫されると、手がしびれたり、足がもつれたりするなどの運動障害が現れます。

頸椎後縦靭帯骨化症(けいついこうじゅうじんたいこっかしょう)

靭帯は背骨の椎骨と椎骨をつなぐ強靭な繊維組織ですが、後縦靭帯骨化症は、脊髄の前方にある後縦靭帯が硬く分厚くなって(骨化)、脊柱管が狭くなり、脊髄が圧迫される病気です。後縦靭帯骨化症は胸椎や腰椎にも発症しますが、特に頸椎に多いという特徴があります。

頸椎の後縦靭帯の骨化が進むと、首を動かせる範囲が制限されます。加齢とともに骨化が進行するため、特に高齢者で可動域の制限が目立ってきます。少しずつ骨化が進行していく場合は、首の痛みや肩こりなどが最初に現れ、次第に首や手足の痛みやしびれ、手や指先の感覚障害、運動障害など重症化していきます。

外傷性頸部症候群(がいしょうせいけいぶしょうこうぐん)/頸椎捻挫・頸部挫傷(けいついねんざ・けいぶざしょう)

外傷性頸部症候群はいわゆる「むち打ち症」で、交通事故などにより突然、頭が前後に大きく揺さぶられることで発症します。衝撃の大きさにより損傷の程度はさまざまですが、軽症では首筋に軽い痛みが起こり、中等度の症状では肩や腕から手にかけて痛みやしびれが加わります。重症になると長期にわたって頭痛や吐き気、めまい、耳鳴りなどが起きてしまうことも。

頸肩腕症候群(けいけんわんしょうこうぐん)

頸肩腕症候群は、肩こりを含む首、肩、腕に起こる多種多様な症状をまとめた病名です。慢性的な痛みがある、目が疲れる・乾く、頭痛を伴う、疲れやすいなど症状はさまざまです。負担の多い姿勢や作業による疲れ、精神的ストレスなどにより引き起こされると考えられています。

胸郭出口症候群(きょうかくでぐちしょうこうぐん)

首から腕に向かう血管や神経は、鎖骨や肋骨、その周辺の筋肉に取り囲まれた胸郭出口というすきまを通ります。この血管や神経が鎖骨や筋肉によって圧迫されることで、腕のしびれや痛みが現れる状態を胸郭出口症候群といいます。首や肩の痛みを伴うことが多く、なで肩の人は鎖骨が下がり気味なので症状が出やすい傾向にあります。

血管が圧迫されて血行が悪くなると、腕や手指が冷たくなったり、皮膚や粘膜が紫色になったりすることも。また、脊髄から腕に伸びる神経群が圧迫されると、痛みやしびれ、感覚異常などの症状が現れます。

髄膜炎(ずいまくえん)

脳や脊髄の周囲は髄液と何枚かの膜で覆われており、この膜を髄膜といいます。髄膜炎は風邪などによって細菌やウイルスが髄膜に達して炎症を起こす病気です。細菌性の場合は命に関わったり、重い後遺症が残ることがあります。成人や高齢者の細菌性髄膜炎の症状は、発熱、頭痛、嘔吐などですが、項部硬直という症状がよく現れます。その場合、首の後ろが硬く張って、痛くて首をうまく曲げることができなくなります。

緊張型頭痛

緊張型頭痛は、無理な姿勢の継続や疲労、不安や精神的ストレスなどが原因で、頭や首のまわりの筋肉が緊張し、過剰に収縮することにより生じます。慢性の頭痛の78割を占め、きつい帽子をかぶり頭全体が締め付けられるような鈍痛が続きます。肩こりも起こり、首を回すとめまいが生じることも。

首が回らない症状を緩和する対策・対処法

動かさず、安静にする

寝違えや外傷性頸部症候群などで首が回らず痛みを伴う場合は、首を動かさないようにするなど安静を心掛けることが大切です。特に外傷性頸部症候群は発症から1週間は安静にし、起きているときは細長くたたんだバスタオルを首に巻くなど、首回りの簡単な固定をすると良いでしょう。

首周辺を温め、血行を促す

首や肩に慢性的な痛みがある人は、筋肉が緊張して縮こまっている状態の可能性が。首周辺を温めて血行改善を図ると症状が和らぎやすくなります。寝違えや首・肩のこりがひどい場合は、蒸しタオルやドライヤーで首や肩を温めたり、ゆっくりお風呂につかって全身を温めることも効果的です。

緩やかなストレッチ

緩やかなストレッチ

激しい痛みがあるときは安静が必要ですが、症状が落ち着いているのであれば軽いストレッチ程度の運動が有効です。筋肉のこわばりをほぐして痛みを和らげるだけでなく、筋力維持にも役立ちます。こわばりを感じたら首や肩のまわりの筋肉を動かしてみましょう。

次に頸椎を支える筋肉の簡単なストレッチをご紹介します。

  • 首の運動:首をゆっくり前後左右に倒したり、回したりする。
  • 肩の上げ下ろし:肩をすぼめて肩先を耳に近づけるようにした後、肩の力を抜いてストンと落とす。
  • 背伸び:腕を組んで頭の上に挙げてギュッと伸ばした後、力を抜く。

ただし、痛みを我慢してストレッチするのは逆効果の場合があるので注意してください。

市販薬を活用する

首まわりのこりの緩和には、以下のような外用薬や内服薬を活用すると効果的です。

  • 鎮痛消炎成分インドメタシンやフェルビナクなどを配合した外用鎮痛消炎プラスター(貼付薬)
  • イブプロフェンが配合された鎮痛消炎内服薬
  • ビタミンB1B6B12などを配合したビタミン剤

ビタミンB群は以下のような作用で肩や首の筋肉痛や神経痛の解消に役立ちます。

ビタミンB1:神経細胞のエネルギー源である糖質の代謝に関与し、神経や筋肉の機能維持に重要な働きをします。

ビタミンB6:神経伝達物質の生成や神経の機能維持に関与します。

ビタミンB12:神経の機能維持に役立ち、末梢神経の修復に関与します。

生活環境の改善

枕の高さや敷布団の硬さなど寝具の見直し

・枕の高さ

神経根の圧迫によって痛みが生じている場合は高めの枕を選びましょう。逆に肩こりだけの場合は高過ぎる枕は症状を悪化させることがあります。理想はベッドや布団などの寝具に対して首の角度が約5度になり、寝具と頸部のすきまを埋め後頭部にぴったりとフィットするもの。ただし、すきまの深さは個人差が大きいので、枕を選ぶ際にフィッティングしましょう。

・枕の硬さ

寝違えはやわらかい枕によって就寝中、首の筋肉が緊張して起こることがあります。硬めの枕に替えてみると防止できるかもしれません。

・敷布団やマットレスの硬さ

やわらか過ぎたり、硬過ぎたりすると背骨のゆるやかなS字カーブが崩れてしまい、首や腰の痛み、肩のこりの原因に。寝姿勢はこのS字カーブを崩さず、保てるよう適度な硬さの寝具を選びましょう。

仕事環境の机・椅子の見直し

デスクワークや読書などでは視線がパソコンや本に無理なく向けられるように、椅子や机の高さを調節しましょう。パソコンで作業をする際は画面の中央が目線よりやや下になるように調整を。

また首に負担をかけない姿勢を心掛けることも大切です。基本姿勢は、椅子に深く腰掛け、あごを引いた状態を保ちましょう。

医療機関の受診

首や肩の痛みは23日寝て安静にしていると軽くなることが多い傾向です。しかし、椎間板や後縦靭帯の変形などで圧迫などによる神経障害が起きている場合、程度によるものの、治療が遅れると手術をしても麻痺やしびれなどの症状が残ってしまうことがあります。心配な症状があれば早めに医療機関を受診するようにしましょう。

参考

井須豊彦 監修:首・肩・腕の痛みとしびれ 治療大全:講談社(2021)
手塚正樹:肩こり、首の痛みは解消できる:インプレス(2015)
山崎正志ほか:頚椎症・首のヘルニア 首と脊椎の名医が教える最高の治し方大全:文響社(2020)