肩こり
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肩こり

肩こりは肩から首、肩甲骨にかけての筋肉の張りや痛みが続く症状。姿勢や運動機能にも影響を及ぼし、日々の生活を送る中で肉体的にも精神的にも負担になります。ここでは、肩こりの原因、症状、治療などをご紹介し、また、日常の生活に焦点を当て、肩こりを解消するための生活習慣の改善方法を提案します。

渡辺 恭良 先生

監修

渡辺 恭良 先生 (理化学研究所 生命機能科学研究センター 健康・病態科学研究チーム)

肩こりってどういう状態?

肩こりの症状

肩こりとは、首すじや首のつけ根から、肩または背中にかけて、張った、こった、痛みがあるなどの症状をいい、頭痛や吐き気を伴うこともあります。肩こりにはさまざまな筋肉が関係しますが、その中心は肩甲骨を覆っている大きな筋肉、僧帽筋です。肩甲骨の動きに関与しており、首や肩関節の動きをサポートする役割を担っているため、負荷がかかりやすい筋肉です。

肩こりの原因

日常生活から考えられる肩こりの原因

肩こりには、何らかの病気により引き起こされるもののほかに、原因がはっきりとはわからないものがあります。実際には原因がわからないもののほうが多く、不良な姿勢、運動不足、過労、寒冷、肉体的・精神的なストレス、自律神経の乱れなどが重なり、肩周辺の筋肉の緊張と血流不足によって起こると考えられています。以下に、いくつかの指摘を致します。

同じ姿勢でのデスクワーク
同じ姿勢で長時間パソコンなどに向かっていることで、肩甲骨や肩関節の動きが損なわれ、僧帽筋などの筋肉に緊張が続き、肩こりの症状があらわれます。さらに姿勢不良が加わると、神経が圧迫される状態が続き、肩こりが進みます。

眼精疲労
パソコン、スマートフォン、タブレットなどの長時間使用による目の酷使や、メガネの度が合っていない、ブルーライトや紫外線の影響、ストレスや睡眠不足による自律神経の乱れなどは目を疲労させる要因になります。そして、これが続くと慢性的な目の疲労が定着し、目の症状だけでなく、肩こりも含めた全身の疲れを伴う眼精疲労を引き起こすことがあります。

運動不足による筋肉疲労と血行不良
日頃から体を動かしていない人は、筋肉が普段使われないので、筋肉の緊張や疲労が起こりやすくなります。運動不足は血行不良を招くので、これもまた肩こりの原因になります。加えていえば、体を動かさなくても一定の姿勢を維持するためには筋肉を緊張させる必要があり、運動不足は肩こりの大敵といえそうです。

ストレスによる緊張
肉体的または精神的なストレスを受けると、筋肉を緊張させる自律神経(交感神経系)の働きが活発になります。そのため、肩周辺の筋肉が緊張し肩こりが起こります。ストレスが一時的なものであれば回復しますが、連日ストレスにさらされると筋肉の過剰な緊張が続き、肩こりが慢性化することがあります。
肩こりの慢性化は、慢性的な疲労につながります。通常の疲労は休息や睡眠で解消できますが、精神的なストレスが重なると休息や睡眠も不完全なものとなります。疲労が慢性化するように、肩こりもまた慢性化することがあります。

寒さによる肩の筋肉の緊張、自律神経の乱れ
寒い場所や冷房の効いた部屋で長く過ごしていると筋肉が緊張します。さらに、寒さは自律神経の乱れも引き起こし血行も悪くなり、筋肉の緊張が強まり、これらが負のスパイラルとなり、肩こりの原因となります。

肩こりの原因と考えられる疾患

※以下の疾患は、医師の診断が必要です。
下記疾患が心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。

[四十肩、五十肩]
正式名称は肩関節周囲炎といいます。加齢に伴い、肩関節とその周辺の組織が慢性的な炎症を起こし、腕を上げたり、腕を後ろに回したりする動作が痛みのために制限されます 。じっとしていても、夜中に眠れないほど痛むこともあります
肩の痛みは、程度によって6カ月~1年半ほどで回復しますが、回復を早めるには肩の軽い運動を行うのが効果的です。痛さのあまり動かさないままにしておくと、肩の動きが悪くなってしまう可能性があります。

この疾患・症状に関連する情報はこちら。 四十肩・五十肩

[変形性頸椎症]
首の骨と骨の間をつなぐ椎間板の弾力が加齢に伴い減少することで起こります。弾力が減少すると、椎間板に接している椎骨がトゲのように変形します。このトゲが、頸椎の間から肩に向かって出る脊髄神経を圧迫して刺激し、これにより首から肩甲骨、腕、手指にかけて強い痛みやしびれの症状があらわれます。

[更年期障害]
閉経の前後、約10年間をさす更年期を迎えると、女性ホルモンのバランスが急激に変化し、心や体にトラブルが起きることがあります。この時期にあらわれる自律神経失調症に似たさまざまな症状を更年期障害といいます。
症状には、肩こりや疲れ、だるさ、のぼせやほてり、イライラや不安感などがあり、仕事や家事などの日常生活に支障をきたす場合が少なくありません。

この疾患・症状に関連する情報はこちら。 更年期障害

[高血圧症]
遺伝や肥満、塩分の摂り過ぎなどの生活習慣が原因で収縮期(最大)血圧140mmHg以上、拡張期(最低)血圧90mmHg以上が続く状態です(日本高血圧学会2019)。高血圧症は、狭心症、心筋梗塞、心不全、脳梗塞、脳出血など重篤な病気を引き起こす可能性があります 。自覚症状がない場合が多く、肩こりや動悸、のぼせ、息切れなどの症状があらわれることがあります。

この疾患・症状に関連する情報はこちら。 血圧が高めである

[低血圧症]
遺伝や病気などが原因で起こるといわれていて、一般的には収縮期血圧が100mmHg未満の状態です 。多くの人が立ちくらみ、めまいを感じます。また、肩こり、だるさ、疲れ、頭痛、寝起きが悪いなどの症状が起こることがあります

この疾患・症状に関連する情報はこちら。 血圧が低めである

[狭心症]
心臓をとり囲む血管が動脈硬化によって詰まると、血液の流れが悪くなり、心臓の筋肉が酸素不足を起こします。典型的な症状は胸が締め付けられるような痛み ですが、関連痛(放散痛)として、肩などの心臓とは別の場所に症状を起こすことがあります。
例えば、肩こりを突然感じたり、胸の締め付けと同時に肩にも痛みが広がる発作が数分間続いたりすることがあります。

[心筋梗塞]
心臓をとり囲む血管が動脈硬化によって完全に詰まって、血流が途絶える状態です。胸に激痛の発作が起こり、呼吸困難や吐き気、冷や汗などを伴うことがあります。痛みは20分以上続き、激痛は胸だけではなく、肩、腕、胃のあたりに起こることもあります。

[肩こりに隠れたその他の病気]
肩こりはさまざまな病気の前兆であることがあります。肩こりに隠れたその他の病気のうち、主なものとして下記が考えられます。
片頭痛、解離性大動脈瘤、肝臓疾患、胆石症、膵炎、脳出血、脳梗塞、パーキンソン病、視力障害、内耳・外耳などの炎症性疾患、副鼻腔炎、顎関節症、心身症、うつ病など 。疾患が心配な場合には、早めに医師の診察を受けましょう。

肩こりの治療法
肩こりの治療には、マッサージ療法、温熱療法、運動療法、装具療法、理学療法、ペインクリニック(神経ブロック;肩こりの症状が強い箇所等の神経やその周辺に麻酔薬やステロイドホルモンを注射し、痛みやこりをとる治療法)、薬物療法などがあります 。また、痛みの原因と考えられる筋膜(筋肉を包む膜)に働きかける筋膜治療もあります。
ただ、まずは、日常でできる予防法を目指しましょう。肩こりを重篤な持続症状にしないことが大切です。

日常でできる肩こりの予防法

体を動かして血行を良くする

肩甲骨や肩関節を適切に動かすことで、僧帽筋などの筋肉の血行が良くなります。痛みの解消をめざし、体に負担が少なく、全身の筋肉をバランス良く使う運動を、少しずつでも行うようにしましょう。ウォーキングやサイクリング、水中ウオーキングなどのエクササイズのほか、ラジオ体操、ヨガ、ストレッチがおすすめです。

肩や首を冷やさない

夏のエアコンによる冷やし過ぎや冬の寒さは身を縮める筋肉の緊張を伴い、肩こりの原因になります。夏は熱中症にならないように注意しながら、冷房の冷気が体に直接当たらないようにしましょう。また冬は、外出時にマフラーやハイネックの服を着たり、蒸しタオルやカイロなどを使ったりして肩と首を温めるとよいでしょう。

仕事の環境を見直す

会社にいても、テレワークなどで家にいても、昨今はパソコンやスマートフォン、タブレットに向き合う時間が増えていることと思います。前述のとおり、同じ姿勢でのデスクワークや眼精疲労は肩こりの原因になりますので、姿勢や連続使用時間に注意しましょう。

パソコン画面と目との距離は40cm以上離し、目線が下になるように位置を調節します。背筋を伸ばして椅子に深く腰掛け、キーボードは自然に手を置いたときにひじの角度が90~100度くらいになるとよいでしょう。
スマートフォンやタブレットも同様に、適度な距離をあけましょう。長時間使用するときにはキーボードなど外付け機器で疲労を予防しましょう。うつむいた姿勢で使い続けると、頭の重さを受け止めている首、そして首を支えている肩に大きな負担がかかるため気をつけましょう。

パソコン、スマートフォン、タブレットいずれの場合も、1日の作業時間が長くなり過ぎないよう注意が必要です。1時間以内で1サイクルとし、サイクル中にも1〜2回の作業休止時間を設け、ときおり立ち上がってストレッチしましょう。画面と書類を交互に見る作業では、目が疲れない位置に書類を置いてください。テレワークでは、どうしても姿勢が乱れがちです。正しい姿勢でほどよい休憩を心がけましょう。

肩こりの対処法

自宅でのセルフケア

血行をよくする、ストレスを軽くする、緊張をときほぐす、市販薬を上手に利用するなど、自宅での肩こり改善方法をご紹介します。

効果的な入浴で血行を良くする
ぬるめのお湯にゆったりとつかりましょう。温度に気を付けながら、こっている部分に熱めのシャワーと水を2~3分ごとに交互にかけ、最後に熱いシャワーで締める方法もおすすめです。血行が良くなるとともに、ストレスの解消にも役立ちます。

ほど良い刺激のマッサージを受ける
適切なマッサージで肩や首の筋肉の緊張や痛みをときほぐしましょう。ただし、痛みを感じるほどのマッサージは、筋肉に余計な緊張や局所的な疲労を与えたり、小さな傷をつけてしまうことがあります。
家族をはじめ周りの人や自分で行う場合は、さする、軽く押す、もむ程度の軽い刺激に留めておくのがよいでしょう。(強い力を必要とするマッサージを行う場合は、医師、または「あん摩マッサージ指圧師」の免許を持つ人に行ってもらう必要があります。)

市販の薬を使う
肩こりや首のこりには、鎮痛消炎成分を配合した外用鎮痛消炎製剤の貼付薬や内服薬が効果的です。ビタミンB1、B6、B12などの有効成分を配合したビタミン剤も、筋肉の活動、代謝、血行に関与して、体の中から痛みを緩和してくれる効果があります。そのほか、筋肉の緊張を緩めるような成分の入っているものもあります。

医療機関の受診
うずくような痛みが伴う、肩を使っていないのに痛む、肩こりの症状が徐々にひどくなる、階段を上るなど体を動かしたしたときに肩が痛む、手にしびれが伴う、さらには、日常生活に支障をきたすほどの肩こりなどは、見逃せない病気が隠れている可能性があります。医療機関で診察を受けましょう。

※画像はイメージです

■参考文献
日本臨床内科医会「わかりやすい病気のはなしシリーズ47 肩こり」
https://www.japha.jp/doc/byoki/047.pdf
森本昌宏; 近畿大医誌 35, 151; 2010.
https://kindai.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=10307&item_no=1&page_id=13&block_id=21
鎌田孝一; 順天堂医学 54, 359-60, 2008.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjmj/54/3/54_359/_pdf/-char/ja